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テーマフォーラム6月討議内容


21世紀の産業基盤~循環型社会へのメッセージ

パネルディスカッション

ホセ・ゴールデンバーグ (元ブラジル環境相・現サンパウロ州環境局局長) 
福川 伸次 (愛・地球博グローバル・ハウス館長、 ㈱電通 顧問)
平野 眞一氏 (名古屋大学総長)

コーディネーター

茅 陽一 ((財)地球環境産業技術研究機構・副理事長/研究所長)

基調講演 「持続可能な発展-それは実現可能なことか?」

ホセ・ゴールデンバーグ氏

ホセ・ゴールデンバーグ氏 [元ブラジル環境相、現サンパウロ州環境局局長]

 文明社会に入って以来、人間活動は環境に影響を与えてきたが、それは特定の地域にとどまってきた。今は状況は変わった。人間活動によって地球上を移動する物質の量は2000年で年間48億に達する。これは自然によって動かされる天然資源の移動量とほぼ同じ水準だ。人類はいまや地球環境を大きく左右する、地球科学的な規模の力を持つに至ったといえる。従来のような開発や成長のパターンに代わり、持続可能な成長が望まれるゆえんだ。既に世界にはそれを先取りするような動きが出始めてはいる。第一には資源利用の効率性が高まっていることだ。この傾向はエネルギー効率の向上によって測定することができる。経済協力開発機構(OECD)加盟の先進国では、過去30年間に、国内総生産(GDP)は250%伸びたが、エネルギーの利用は約50%しか増えていない。経済成長とエネルギー消費の拡大が分離できることを示している。第二に、リサイクルや原料の再利用が特に、天然資源の節約のために重要な手段となりつつある。リサイクルには当然エネルギーが必要だが、その大きさは、生の原料から製品を作るのに必要なエネルギーと比べ通常半分以下の水準だ。第三には、再生可能エネルギーによる、化石燃料の代替が挙げられる。バイオマス(生物資源)や地熱、水力、風力といった再生可能エネルギーは、現在の世界のエネルギー消費の10%以上を占めている。こうした道具を動員すれば、持続可能な開発は可能になると思われるが、課題も多い。途上国の人口増加率は、通常、工業国の2倍から3倍は高い。さらに所得の分布はあまりにいびつになっているため、途上国での経済成長への圧力は非常に高い。発展途上国は望ましい生活水準に達するために現在の3倍から4倍の天然資源を必要とすることになる。これは、ぞっとするような展望だ。なぜなら、こうなると石油資源をはじめとする資源を巡る競争が激化する。さらに温暖化ガスの排出増など、深刻な環境への影響をもたらすからだ。どうすればいいか。それへの答えは、発展途上国を押さえつけることではない。むしろ、途上国に一足飛びに高度な技術を導入することを一つの戦略に据えるべきだ。途上国は先進国が経てきたような、汚くて無駄が多くて、環境汚染を残すことを伴う、経済の発展段階を経る必要がない。今日利用が可能な最新で効率性のある技術を導入すればいいのだ。例えば現在灯油の発電機を使っている村で、太陽光発電と小型の蛍光ランプを組み合わせて使えば、設備への資本投資が相当に節約できる。「技術の跳躍」によって、長期的な環境浄化のコストも減らすことができる。米国ではこうしたコストが年間約1000億ドルに達している。また環境汚染は国民の健康をむしばみ、医療費の高騰にもつながる。技術の跳躍はこうしたコストを減らすことができる。地球上のすべての人々が、現在の西欧や日本と同水準の満足いく消費をする時代はまだまだ遠い。しかし、天然資源と再生可能エネルギーを賢明に使うことによって、持続可能な開発を何世代にもわたって続けることは実現可能だ。

講演(1) 「パートナーシップ形成による循環型経済社会構築への挑戦」環境パートナーシップ・CLUBの活動と展開

池渕浩介

池渕浩介 [環境パートナーシップ・CLUB会長(トヨタ自動車(株)代表取締役副会長)]

 環境問題は企業が取り組むべき最も重要な課題だ。トヨタ自動車など中部地区の企業は、中部地区を環境先進地域とすることを目標に2000年2月に環境パートナーシップ・CLUB (EPOC)を設立した。EPOCは環境行動の社会への浸透、環境意識にあふれた社会風土づくり、環境行動に関する情報の内外への発信などを目的に掲げ、設立以来様々な活動を展開している。現在、会員企業は320社以上に達している。異業種の企業が集まり、環境経営に関する情報交換を行っている。また、循環型社会を構築するには、企業のみならず、市民、行政と役割を分担し助言し合う仕組みづくりも必要と考え、グローバルな視点で環境問題をとらえつつ、地域で連携したパートナーシップの構築を目指している。その一つが、「環境コミュニケーションシステム」と呼ぶ仕組みだ。会員企業は二酸化炭素排出量の削減や省エネルギーの達成目標など環境への取り組みを宣言し、ホームページを通して地域の住民に閲覧してもらう。住民から意見をもらい、各企業の環境行動計画に反映させることで、地域社会からの信頼を獲得する。新たな環境ビジネスの創造につなげる狙いもある。また、会員企業がより高度で専門的な知識を得るため、環境汚染事故の防止法や環境関係の法規制などについて大学や学会と連携したセミナーも開催している。環境と経済発展を両立した循環型経済社会の構築を目指して、今後も産官学、市民と連携した活動を強化していく考えだ。


講演(2) 「地球環境との共存」を目指す新たなくらし価値創造

大鶴英嗣

大鶴英嗣 [松下電器産業(株)常務取締役]

 地球環境問題に最先端の技術で貢献しながら持続可能な発展を実現することが21世紀の企業の使命だ。環境と企業の競争力を対立関係でとらえるのでなく、環境を競争力強化の積極的な構成部分として考える必要がある。消費者の購買状況をみても、省エネルギー、環境配慮がますます重要になっている。松下電器産業グループは2001年に環境ビジョンを策定した。環境事業や製品リサイクルの強化などについて、05年と10年に向けた具体的な数値目標を設定している。製品、工場、従業員の意識を環境経営の三つの柱に据えているが、今回は製品の取り組みについて説明する。松下グループの2003年の二酸化炭素排出量は工場からの排出量が200万t。一方、製品使用時の排出量はその約5倍の1100万tに達すると推定している。このことからも省エネ製品の開発が重要な課題になっている。具体的には、製品の価値向上を分子、環境への影響削減を分母にした「ファクターX」という物差しを個別製品に適用している。この数値が大きいほど、環境へ貢献度が高いことを示す。温暖化防止ファクターでみると、04年の一世帯当たりの家電製品の数は1990年比20%増加。一方、二酸化炭素排出量は40%減少した。同ファクターは1.9になる計算だが、これを05年には2、10年には5にすることを目標に掲げている。消費者の生活の質を高めていくと同時に、環境への影響を限りなく減らす製品の開発を経営の根幹に位置づけていく。


パネルディスカッション 「21世紀の産業基盤~企業は今、何を目指すのか」

コーディネーター
茅 陽一

茅 陽一 [(財)地球環境産業技術研究機構・副理事長/研究所長]

パネリスト
ホセ・ゴールデンバーグ氏

ホセ・ゴールデンバーグ [元ブラジル環境相・現サンパウロ州環境局局長]

福川 伸次

福川 伸次 [愛・地球博グローバル・ハウス館長、(株)電通 顧問]

平野 眞一

平野 眞一 [名古屋大学総長]

(茅)  1972年のローマクラブの報告書「成長の限界」は人口増と資源・エネルギーの制約で人類文明の崩壊が訪れると警告した。このうち人口については安定化の兆しが出ており、かつて心配された人口爆発は回避されそうだ。経済の成長は資源・エネルギーの消費を加速する。資源の循環利用、化石燃料からの脱却という課題に取り組むにあたって、現状をどう考えるか。
(平野)  21世紀の初頭に至って、学問や科学に突き付けられた課題がいよいよ明確になってきた。科学や学問がもたらした「光と影」のうち、光の部分をさらに進展すると同時に、影の部分をなくす努力をする。全地球的に持続可能性を実現する責務がある。少なくとも限りある化石燃料は燃やすのでなく、物質を作る方に回し、新たなエネルギーを求めるべきだ。ただクリーンエネルギー導入には時間がかかる。新エネルギーはコストが高い。風力発電のように通常の電力系統にそのままつなぐと、システムが不安定になりかねない。エネルギー以外でも、電子材料で鉛を使わない流れになっているが、これはコストアップになる。リサイクルにもカネがかかる。環境問題に取り組むきちんとした意識と啓発活動が重要だ。
(福川)  人類は生活の向上を求めて産業と技術を発達させてきた。これは資源は無限で、地球は循環機能を持つという前提に立っていた。しかし今や地球の循環機能の限界を超えるところに来たようだ。大量生産・大量消費・大量廃棄の社会を効率生産・有効消費・大量循環という形に変えなければならない。三つの重要なポイント。まず市場の構造を変えることだ。消費者側がエネルギーの消費が少なく、環境への負荷が少ない商品を選ぶようになれば、企業はこれに合わせざるを得ない。これで市場の構造が変わる。二番目は経営の重点を変えることだ。収益追求と同時に環境フレンドリーな経営にする。例えば日本ではトップランナー方式という方法でメーカーに競わせて、家電製品の性能を上げている。企業はたいへんだが、経営の重点を環境に向けるようになる。三番目は技術のパラダイムを変えることだ。例えば石油化学の技術を生物化学に転換したり、水素エネルギーの利用を図ることでエネルギーの需給構造を変える。リサイクルをしやすい技術体系にすることも重要だ。
(茅)  環境保護にはカネがかかるという問題がある。コスト高になるのでやりたがらない。政府からの助成など解決の方法があるだろうか。
(福川)  家庭用の燃料電池の取り付けや、ハイブリッド自動車への補助金を出した例がある。リスクを吸収するためある種のインセンティブを与えるのは一つのやり方だ。技術開発に助成をするというやり方もある。重要なのは 当初のこうした助成分を、企業が内部化していくことだ。これを促すための必要最低限の助成にとどめるのがいい。
(平野)  1970年代の石油ショックのころを思い出したい。省エネをいや応なしに迫られたことで新しい技術が生まれた。省エネ技術は環境面の改善にも貢献した。今後の環境配慮型の技術については、例えばプラスチックを石油からではなくて生物系の材料に切り替えることなどが考えられる。技術開発には政府からの支援が必要だろう。さらにそれを他の国に出すという形で波及効果が生まれてくる。
(ゴールデンバーグ)  市場の規模とコストには強い関係がある。新しい技術は使えば使うほど値段が下がる。太陽光発電も以前より大幅に安くなった。さらに国内で市場を拡大すれば、コストはもっと下がり、発展途上国など海外にも売れるようになる。
(茅)  市場規模が大きくなればコストが下がるのは確かだ。問題は、既存の技術の値段が十分に安いため、少々新技術の値段が下がっても消費者がすぐには乗り換えないことだ。環境を意識しないとこうしたギャップは容易には埋まらないのではないか。要はスピードの問題だ。
(ゴールデンバーグ)   欧州では二酸化炭素の排出権の域内取引が始まったが、これにともなって各企業の排出枠の上限が公的に決められる。 日本でも政府が権威を持って企業に指示をすれば、企業は何とかして実現すると思う。日本が批准した京都議定書は非常に権威的であり、統制管理型の仕組みともいえる。目標を達成するために政府は何らかの措置を取らなければならないのではないか。国内で温暖化ガスの排出を減らすのにコストがかかるのであれば、他の国での削減分を組み入れるといった柔軟な措置が利用できる。これらを含め政府が企業に目標達成ための指示を出すことも必要ではないか。
(茅)  日本では例えば地球温暖化防止のための達成計画でも、企業の自主的な行動計画を尊重している。政府がもっと介入すべきなのかどうか。
(平野)  難しい問題だが、現状を考えると、各企業が自主的に企業倫理をもとにして取り組むのが第一だ。企業活動を停滞させ国の顔色を見るような社会になってはならない。ただ、技術の支援や普及啓発のために国が関与できることが多いと思う。
(福川)  政府の介入はできるだけ少ないことが望ましい。グリーン購入などを通じて市場が動けば、企業はそれについていかざ るを得ない。こうした市場機能で解決ができないときに介入する。確かに市場は失敗することがあるが、政府も景気対策に見られるようにしょっちゅう失敗するのが実情だ。自主行動計画や企業の社会的責任というものを産業社会の中に植え込んでいく。そして企業の経営者の意識を変えることが重要だ。
(茅)  グローバルに展開している先進国企業が途上国で果たす役割は大きい。企業に対する注文は。
(平野)  日本企業は途上国に大量に進出している。単に労働コストの観点から海外で操業するのではなくて、本当のグローバルな意味で使途を考えた製品を作ることを考えて欲しい。
(福川)  日本企業は水平・垂直色々な形でネットワークを組んでいる。日本企業が海外に行く場合には持てる最善の技術を供与する。植林に協力したり、途上国の政策形成能力を高めるために研修など人材養成に協力することも重要だ。
(ゴールデンバーグ)  日本企業は世界中に優れた技術を広めるべきだ。トヨタ自動車のハイブリッド車は米国で成功を収めているが、途上国にも広げればいい。途上国にもベストのモデルを売るようにすべきだ。
(茅)  持続可能な社会の実現には企業の行動は重要だし、環境という問題をコストがある程度高いことを考慮しても進めていかなければならない。そしてその中では何といっても技術が鍵を握る、というのがみなさんのご意見のようだ。特に発展途上国にはそうした効率の高い、環境にやさしい技術をより積極的に移転することが日本企業に求められている。こうした方向で企業が行動することを希望したい。