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オープニングフォーラム討議内容

1日目

主催者挨拶

坂本春生 2005年日本国際博覧会協会副会長

 主催者を代表して、ごあいさつを申し上げます。皆様ご承知のとおり、大阪で万博が開催されてから35年たちました。時代は大きく変化しております。今、人類に大きく求められているテーマは自然の叡智を踏まえた持続可能な社会の創造ということです。「愛・地球博」では会場建設や展示イベントなど、いろいろな面でそのテーマにチャレンジしています。

 その中の一つとして、会期中毎月、「生物・文化の多様性」「21世紀の科学技術の果たす役割」「環境教育」などのテーマでフォーラムを開催し、9月には世界に向けてその成果を発信したいと考えております。
過去の博覧会において、同一の企画として国際シンポジウムを毎月開催したことはございません。したがって、今回が万博史上初めての試みです。国内外の専門家からも大変注目されており、私ども協会としても発信性を高めるための努力をしてまいりたいと考えております。
 このオープニングフォーラムにおきましては、持続可能な社会の創造に向けての課題について、政治、文化、科学、産業の各界の著名な方々にご議論いただくこととなっております。恐らくこのフォーラムにおいては、20世紀における社会が抱えていたさまざまな課題をベースにして、21世紀の社会が目指すべき方向性について幾つかの提言が出されることと期待しております。

ヴィセンテ・ロセルタレス 博覧会国際事務局(BIE)事務局長

19世紀、20世紀初頭、国際博覧会は技術的革新・経済活動のショーケースとして開催されました。1931年、特に第二次大戦後に開催された博覧会をきっかけとして、大きな変革がもたらされた国際博覧会は、物質的な人間社会の進歩のショーケースではなく、人々の対話、文化の間の対話、また同時に技術的革新の進捗を国際協力の一つの手段として表明し、文化的な交流及び商業的な交流を促進するための重要なイベントとして開催されるようになりました。

 基本的な博覧会のテーマを選定する基準としては、世界的に関心を呼ぶテーマでなければいけない。未来の文明にとっての主要課題であり、各国政府にとっての優先課題であると同時に、主要な国際機関にとっても政策課題の一つとならなければいけない。また、民間企業の関心を引くものであると同時に、市民社会及びNGOの代表にとっても興味のある話題。そして交流、対話、協力を喚起するもの、我々の考えを喚起するものでなければいけないということになっています。
 愛知万博のテーマ「自然の叡智」、そして三つのサブテーマは、将来の文明にとって主要な課題を包含しています。したがって、これは各国政府また国際機関にとっても重要な課題です。
 今回の愛知万博は、今までの国際博覧会が築いてきた道のりを踏襲し、将来へとつなげていかなければいけません。私たちの義務は、こういった課題を取り上げ、できるだけそれを探求し、この国際フォーラムのような催しの中から出てきたメッセージを広く伝えていく必要があると思います。
 こういった意見の交流を通じ、私たちがより住みやすい世界を実現する一助となることを祈念しています。

歓迎メッセージ

オーレ・フィリプソン氏 2005年日本国際博覧会国際諮問委員会委員長

 今、愛知において歴史の扉が開かれようとしています。この「愛・地球博」において、愛知のイメージ、そして未来は一変するでしょう。EXPOというのは長い歴史を持っております。1851年にロンドンで開かれて以来、パリ、ロンドンなど様々な都市において開催されました。そして、そこから多くの利益を享受し、都市がみな改善されました。もちろん、EXPOというのは問題が全くなかったわけではありません。過去の主催都市の一部の市民や、強力な支援者であっても、どんな成果が生まれるのか、と疑問に思ったこともあると思います。それに対してEXPOが、実に多くの利益をあらゆる市民に対して提供できるのだということを伝えてこそ、初めて皆様から絶大なご支援をいただくことも可能になるのです。そして、皆様のご支援こそが成功のためには不可欠なのです。過去におけるEXPOというのは、すべてその(主催国と主催都市の)認識を高める、認知度を高めるということで大いに貢献しました。この「愛・地球博」は、日本国内そして世界において、名古屋と愛知の認知度を高める強力な手段になると考えます。それはまた、経済と文化面での前進につながるということです。

 EXPOがなぜユニークかといえば、それは限られた面積の中に世界各国が表現されているということです。各国自身がつくったパビリオンの中で、最も高く評価されている経済や文化面での成果が示されるのです。今回これは、すべて「自然の叡智」というテーマのもとで集まっています。
 最後に、EXPOの重要な役割について申し上げます。それは、国際的な対話と国際理解の場という役割です。EXPOには、各国の元首・首脳や指導者や政治家、芸術家その他経済や文化面での重要人物がやって来ます。こういった多くの世界のリーダーがEXPOにやってくるということは、すなわちEXPOが世界の問題を話し合う場になるということです。そしてその中で、平和や環境を改善するために何ができるかについても話し合う場が提供されます。
 EXPOで世界を変えることはできないかもしれないが、しかし大きな差を生み出すことはできます。主催者側としては、今この愛知県で、この多くの国々が平和裏にお互いに共存できるということ、そして、それが6カ月続くということは、すなわち世界のよりよい理解につながるのではないかと考えます。これは我々の高く掲げた目標ですが、決して高望みではないと思います。

基調講演:『自然の叡智を踏まえた持続可能な発展』

木村尚三郎氏 2005年日本国際博覧会総合プロデューサー

 今回のメッセージイベントの総合プロデューサーとしての骨組みを申し上げたいと思います。
 「愛・地球博」と日本の略称では言われています。これは、愛知とかけたごろ合わせの点もありますが、同時に地球を愛する博覧会という実質的な意味もあります。人と自然、人と人、そして人と文化、この三つを愛する。そのような博覧会にしたいという試みがあるわけです。技術にキーワードを見出した20世紀から、今、新しいキーワードを求める時代がやってきたのではないかということです。新しい時代のキーワードは何かというと、これは「命」です。技術は手にした途端から古びていきます。あるいは機械、工業製品であれば故障への道につながっていくわけであります。
 しかし、命は生まれて育つものです。芽が出て、葉が出て、花が咲いて実が実る。命には、そのような“育つ”という要素があり、この命を人間がつくり出すということはできません。たった1枚の木の葉でも、今私たち人間のバイオテクノロジーではつくり出すことができない。菜っぱ一枚つくり出すことができないのでありまして、すべてこれは自然の恵みです。自然には私ども人間には計り知れない大きな力、大きな知恵があるのです。これが、今回のテーマの「自然の叡智」であります。土地ごとのいい文化を一堂に集めたのが、今度の万国博覧会です。したがって、何よりまず、万博史上初めて、文化博という意味合いを持っているわけです。それはご承知のように、今度の博覧会が六つのグローバル・コモンというものに分けられている、六つの大きな文化圏にまとめられているというところからもおわかりかと思います。

 文化の中身というのは、一つは美しさです、一つは動きのある生き方です。もう一つは共に助け合って生きていくという生き方です。昔の人の自然とともに生きる生き方、あるいは美意識とともに生きる生き方。これが今また大事になってきています。したがってテクノロジーは言ってみれば隠し味です。日本では、文楽その他の芝居に黒子というのがいますが、この黒子的な役割を果たしていただこうということになるわけで、その最初のサンプルが今度の博覧会です。そのような文化博という点、つまり自然と人間とのいい関係を国ごとに地域ごとにつくっていき、それをお互いに示し合う。これが今度の博覧会の一つの大きな画期的な特色です。
 そして、2番目(の特色)はテクノロジーのあり方です。いずれも暮らしと命に奉仕するためのものです。そんなに大仰な、大げさな、大きな、人を威圧する技術ではありません。そのような支配する技術から奉仕する技術へというのが、この万博の二つ目の特色であります。

 三つ目の特色が、共に助け合って生きていくという生き方です。
 ひとりぼっちの生き方というのは、大変つらいですね。お互い友達になり合って、仲間をふやして生きていく。これが今、大事になってきました。したがって、イベントのたぐいが全世界的に非常に盛んに行われるようになってきました。このイベントの最大のものが、まさにこの万国博覧会であります。一堂に集い、美しい舞台装置のもとでお互いに仲間になり合う。この感覚がいま大事になってきています。今回の万博がその役割を果たしていると言えるのではないかと思っております。
 つまり、日本がかつて伝統的にやってきた美しい生き方とか、自然と共に生きる生き方。あるいは、針供養とか筆供養、筆塚のように、命のないものにも愛情を注ぎ、お互い暮らしの中で最後まで使い切る、このような感覚。いわゆるもったいないという感覚。そして、お互い人間であれ、自然であれ、友達となって生きていく生き方。こういったものがすべて表現されているのが今度の博覧会であると確信いたしております。

鼎談:『文化・環境・開発の相互の関係及びバランスのとれた発展の可能性について』

【ジョンストン】

 OECDに私が加わりましたのが96年でした。そのとき、ハイレベルのタスクフォースで、OECDの役割や環境面ではどうあるべきかということについて要請いたしました。今日ほかの国際機関におきましても、環境問題に取り組む部門というのを設けています。 さて、このタスクフォースの私に対する助言としては、OECDというのはこれがもし唯一でないにしても、環境問題に取り組む主要な機関の一つである。それはなぜかといえば、経済的なインセンティブを導入し経済面でのディスインセンティブを導入することで、個人の行動や企業の行動に影響を与えていくことが重要だからということでした。少なくともOECDはそのようにしようとしたのです。そして、この報告に基づいて戦略が策定され、取り組むこととなりました。その戦略には五つの目的がありました。
 まず第1の目的は、効率的な形で天然資源を管理することで生態系を維持していくというものです。
 第2は、環境面に対する圧力と経済成長を切り離す、分離するということでした。農業、エネルギー、交通輸送の分野においてそれを試みる。
 第3といたしましては、この環境面での意思決定に関して指標を示すということでした。つまり意思決定者に対して、正しい客観的な情報を提供するということがその目的でした。
 その次は、いわゆる「持続可能な開発」の三本柱と言われるものです。つまり環境面での人々に対する配慮ということで、どういったことを考えなくてはいけないか。例えば遺伝子組み換え作物、あるいは化学薬品の安全性ということをです。
 そして五つ目は、世界的な環境の相互依存性ということでした。これはガバナンス(統治)と協力を改善するということでした。ガバナンス(統治)ということは、政府だけではなく、さらには企業とか産業団体や労働組合なども協力しなければいけないということです。私はそのうちの一つの要素だけを取り上げてみたいと思います。そして、それに関連した幾つかの問題点を指摘したいと思います。
 気候変動ということを申しました。気候変動というのは最も重要な21世紀の課題の一つであると言えます。今やこれをもたらした原因というのは、かなりの部分が、いわゆる温室効果ガスの排出、つまり二酸化炭素を排出する。それは、人間活動の結果として生まれたことが原因だということに懸念が生まれており、それを示すデータもたくさん集積されています。例えば海面上昇をどこまで許容できるか、あるいは砂漠化によって失われる土壌の量はどれくらいか、生物多様性が失われることの影響、また農業への影響はどれくらいであるのか。特に発展途上国への影響はどれくらいなのか。
 もしかして遅過ぎたのではないか。どれが上限なのかわからない。しかし、どれが上限かわからない以上、予防的な措置をとっていかなければなりません。その結果、エネルギー源に関していろいろな議論が行われています。そこで、京都議定書は大変重要な一歩でありました。正しい方向に向かったものです。しかし、アメリカはこれを受け入れておりません。世界最大の温室効果ガスの排出国が参加していません。しかし忘れてはならないのは、この議定書をいま発行したからといって、すべての国々がこれを適用したとしても、温室効果ガスはこれからもふえ続けるということです。つまり上限がどこにあるのであれ、それを数年のうちに超えてしまったら、科学者に言わせればもう後に戻れないというのです。
 なぜ唯一実証済みの技術として、つまり原子力ではだめなのか。なぜ原子力をもっと使わないのか、しかし忘れてはならないのは、チェルノブイリの事故を目の当たりにした後、これはグローバルな問題だということです。つまり原子力施設に何かが起これば、それは近隣諸国に影響を与えるということになるのです。
 さてもう一つは、いわゆる風力、太陽エネルギー、あるいは波力、汐力、潮力、バイオマスとかいろいろな代替エネルギーのことが言われていますが、IAEAによれば、エネルギー分野に今から2030年までに60兆ドルを出資しなければいけない。そして、かなりの部分を既存のインフラの改善のために使うとして、最終的にそれでもエネルギー構成はあまり変わらないと言っています。

 IAEAの予測によれば、原子力は若干減るけれども、いわゆる代替エネルギーと呼ばれる風力とか太陽とか水力発電というものは、14%に満たないのではないかと言っています。我々はこうしたさまざまなエネルギー源を使ってこの問題に取り組まなければいけません。
 「持続可能な開発」というのは我々すべての国の開発段階におけるものにとって、自然資産の四つの要素、すなわち土壌、水、空気、生物の四つに依存していると思います。いかにこの要素を維持していくか、保全するか。空気、水、土壌、生物をいかに保全していくか。エネルギーもその中で大変重要な要素であります。

【ブラウン】

 世界経済が発展する中、地球の生態系に照らして経済規模というものがどんどんと肥大してきました。2000年のレポートの中で、世界の経済成長は2000年において19世紀の世界の1世紀間の経済成長のペースを上回ったと。つまり、この1世紀の間に世界の経済は16倍成長した。経済の発展に伴ってますます地球の生態系に対してはひずみが出てきました。
 こういった生態系の問題、例えば森林破壊の問題、砂漠化の問題、あるいは漁業活動がもはや維持できなくなった。こういった環境上の問題というのは、人間と自然の間のひずみがどんどん悪化していることを示しています。
 恐らく食糧分野においてこれから数年の間に大きな問題が出てくるでしょう。水が不足しますと、稲の収穫量というのが一番大きく下がります。このような現在の状況において、農家は二つの新しい課題に直面しています。地下水面の低下、及び地球上の温度の上昇です。地下水面はどんどん下がってきています。
 私たちが使う水の7割は、かんがいに使用されているものです。食物生産、これはまさに水を集中的に使用する経済活動です。人間が毎日摂取する食糧というのは2000リットル、人間が1日に摂る水分500倍の水がなければ育ちません。やはり帯水層が枯渇してしまうと、将来の食糧供給がそれによって遮断されるという問題が生じます。また二つ目のトレンド、気温の上昇も人類史上新しい現象です。70年以来、地球の温度は毎年0.7度、あるいは華氏でいうと華氏1度以上上昇してきました。多くの気象学者が研究を行い、温度と穀物の収穫量の関係を研究した結果、科学者の間では収穫期間で温度が摂氏1度上昇すると、小麦、米、トウモロコシで収穫量の減少が10%生じてしまうという経験則が合意されています。
 今、収穫あるいは穀物を耕している農家は、このように急激に温度が上昇するという体験を人類史上初めて農民として体験しています。世界の食糧供給の見通しに対し、こういった影響を及ぼすトレンドを考えてみると、気候、水供給、人口の増加、さまざまな地球が直面している課題をそのままほうっておけば、人類は望まない方向に進んでしまうということです。まず私たちは急速に対策を講じなければいけません。水の生産性を高めていくということが何よりも重要です。特に水不足が深刻化している世界の国々において、水1単位当たりの生産性を高めなければいけません。
 第2にやらなければいけないことは、まず人口増加の予想を細かく分析するということです。10年前をピークとして減少はしていますが、かなりの人口がふえ続けています。特に人口増加が集中する地域を見てみますと、人口増加が予想されるほとんどの国々は既に地下水面が低下している、沈下している国々です。これはまさに政治的安定、経済の発展を約束してくれるものとは全く正反対の方向です。
 地球上の気候問題ですが、これから2~3年の間に、だれもがやはり気候が大幅に変動しているということを直接感じるようになるでしょう。
 食糧安全保障(フード・セキュリティー)の問題は複雑です。一昔前は農務省、あるいは農林水産省が専ら専門にそれを扱っていたわけですが、エネルギーを担当する省庁もかかわるようになってきました。特に人口密度が集中している国々においては、自動車の使用が食物の生産にもつながっています。厚生省、家族計画省もかかわりを持つようになってまいりました。つまり、農家だけが食糧の生産の問題に対応していればいいというものではありません。21世紀の大きな特徴は複雑さだいうことです。複雑性というのは私たちにとって大きな課題であり、世界各国の指導者にとっても大きな挑戦です。

【小 倉】

 実は今年のEXPOは、通常の今までの万博と違い、文化というものを非常に全面に出している。経済活動もある意味では文化活動であります。今度の万博のテーマと関連して申し上げれば、いろいろな国の人々、それからいろいろな方々の自然に対する考え方が非常に違うということです。
 例えば「自然」ということは、いいことであるという人もいるが、やはり自然というのは脅威である、何か非常に怖いものであるという人もいる。この二つの見方、自然というものはやはりいいものだ、すばらしいものだという点と、自然は怖いものだという点、この二つをどのように人間として考えていくかということが大事ですが、今日皆さんとともに考えたい問題は、自然を保護するという考え方であります。私はあえて申しますと、自然を保護するという考え方に実は人間のおごりがあるのではないかということを提起したいわけです。

 自然を人間が保護するというのは、人間が自然をコントロールできるという考え方に立っている。すなわち、そこで人間と自然は別々のものとして区別されており、自然というものを人間がコントロールすると。そういう何となしの考えを持っている人が、自然を保護するということをすぐ言うわけです。
 例えば、スマトラ沖地震での津波は天災ですが、マングローブが繁殖しているところは被害が少なかった、このマングローブを少なくしたのは人間なんですね。ということは、あの津波は天災であり人災でもあると思います。また、絶滅に瀕している動物や植物を保護する。これ自体は、非常に良いことでありますが本来もっと大事なのは、地球全体の生態系を保護していかないと地球全体が豊にならないのではないか。
 いずれにしても私が一番申し上げたい点は、人間と自然との関係というのはいろいろな国、人、文化、文明によって違いますので、一見近代文明がつくり上げた自然観といいますか、自然に対する見方というものは100%正しいようにみんな思いますが、やはりアフリカの社会にはアフリカの社会の論理や考え方というのがありまして、その考え方を単におくれているというふうにだけ見ることは問題がある。もちろんおくれている面もあります。しかしそれだけではない。やはり文化的な違いというものに目を向けて見る必要があるのではないかということです。

【ジョンストン】

 1987年に『我々の共通の未来』という本が出版されたとき、持続可能な開発の定義というのは次のようになっていました。現在のニーズを満たすことができる開発、しかも将来の世代のみずからのニーズを満たす力を侵してはならないというものでした。しかしこの基準は、必ずしもあらゆる国に同じように適用できるものではありません。先進国においては、そのニーズというのは発展途上国とおのずと違っています。
 そこで、この作業にかかわっている委員の1人が大変賢明な考察をいたしました。ある世代におけるぜいたくと思われているものは、次の世代においてはもう必須のものとなっている。これがまたジレンマにつながります。
 一つ加えますと、そのためにはバランスが必要です。とても重要でしかも精密なバランスを、一方で経済的な面でのメリット、そして社会的な開発、この二つのバランスを考えなくてはいけません。どうしても我々は、例えばGDPの成長というような形でこれを成長の度合いとして使いがちです。8%のGDP成長はすばらしいというような言い方をしますが、実はこれだけでは何もなりません。本当にその国の経済、特に社会的な観点で何が起こっているのか、何も反映されていません。例えば、強力な成長を遂げている中国においては、実は格差が大変大きいからです。地域間の格差とか所得格差が大きくて、しかもこれはただ単にそういった成長率という数字には反映されていません。この成長率というのは、あくまでこの世紀における大変な経済成長というのを反映しているのにすぎないのです。
 もっと進んだ形で、言ってみれば三次元の、経済開発、社会的な開発、そして社会的な融合及び環境という三つの軸ではかることができるようなやり方がなければいけないと思います。この三つはとても不可欠なのです。つまり土壌、水、空気、生物、これがなければ、いかなる国であろうとも開発は望めません。これを失ってしまったら、開発をやめてしまうのです。

【ブラウン】

 「持続可能な開発」という概念については、我々は政治的な進捗状況とか社会構造ということではなく、持続可能な形で生態系、水路的なものであれ、海洋での生息域であれ、そのもののサイクルということでした。たとえ年間1%であろうと持続可能な生産量を超えてしまうと資源は枯渇してしまうのです。ですから、もともと環境的なコンセプトとして持続可能な開発ということばが出てきたのです。
 さて、水の問題について言うと、現状、水は一度の利用で捨てられています。これは非常に、原始的なシステムです。水というのは、蒸発、蒸散で減る程度で基本的には何度でも使える資源なのです。そのために、世界の多くの都市で、もっと包括的な水の循環、リサイクルが出来ればと思います。

2日目

シンポジウム『持続可能な社会を創造するための課題について』

―イントロダクション―

【今井】

 21世紀初めての万博が、この愛知県で始まりました。大阪で万博が開催されたのは35年前。あれから時代は大きく変化しました。地球温暖化、あるいは環境の破壊、消費社会の行き過ぎといった難しい問題を目の当たりにいたしまして、この万博のテーマも「自然の叡知を踏まえた持続可能な発展をどう実現するか」、こうしたテーマに変わりました。私たちが、今、立ち向かおうとしている地球の持続的な発展というのは、決してやさしい道のりではありません。

【ブルントラント】

 私たちは、まさに課題に直面する最初の世代であると言えましょう。地球的な規模で自然が破壊されているという、地球的課題に対応するための初めての世代であり、地球の生態系を守っていかなければいけません。私たちは、タイムリーに生活を変え、生産・消費のパターンを変えていかなければいけません。こういった生活の変化を実現することによって、現在の世代のニーズに対応すると同時に、未来の世代のニーズを満たすことができるよう、安全な環境を創出していく必要があります。
 そのためには、私たち人類が相互に依存しているという意識を、さらに高めていかなければいけません。国境を超えて、政策的な決定を行わなければいけません。これはまさに世界協力の新しい時代を語っています。私たちの共通の未来を守っていくために、現在の先進国、発展途上国におけるパターン、トレンドを変えていかなければいけません。

【ジョンストン】

 ブルントラントさんの『我ら共有の未来』によると、持続可能な発展のためには、最低限、土壌、水、大気、また生物を守っていかなければいけないと指摘しています。21世紀において、それぞれストレスにさらされている。そして悪化していることを、私たちは目の当たりにしています。こういった環境悪化は人類の、特に先進国の経済発展によってもたらされました。したがって、重要と思われる課題は、健全な経済発展を世界のすべての、先進国ばかりではなく、途上国において、どうやって担保していったらいいか、経済を発展させる一方、環境を破壊せず、天然資源をいかに守っていったらいいかを考えなければいけないと思います。

【山本】

 このまま経済を発展させていったのでは資源は枯渇し、環境の負荷に人類も生物も耐えられないという警告が発せられております。地球温暖化をはじめとする環境問題は、その原因の複雑さ、対策も多岐にわたることから、解決は決して生やさしいものではありません。しかし、世界は相協力して、この困難な問題に立ち向かわなければなりません。その1つは、これからの経営は、環境を軸に据えて経済の発展を図り、貧困を克服し、世界の人たちが協力して、世界の平和と豊かな生活が持続できるように努めることだと考えております。

【マータイ】

 〈愛・地球博〉にいらっしゃったすべての来訪者は、環境を守る為に科学技術は何ができるのか、見て体感することが出来ます。生活の質を落とさず、新しい科学技術を使うことで逆に生活の質を高めながら、快適な暮らしをする方法を知ることができます。
 自然というのは、情け容赦のない存在です。私たちが自然を破壊すれば、その代償を必ず人類は払わなければいけません。もちろん環境も、生物の多様性を失っていくという大きな代償を払っていますが、最後に一番大きな災いが降りかかるのは人類です。私たちが、一番代償を払わなければいけません。自然の叡知から、私たちが多くのものを学んでいく必要があります。

【ブラウン】

 環境問題に取り組んできた私たちは、長年にわたってこの問題を配慮し、何年も前から、もしこのままの状況が続けば、人類は窮地に陥ると警鐘を発してきました。しかし、いつそれが起こるのか、どんな窮地なのか、わかりませんでした。ただ私は、これらか2、3年のあいだに、食糧の供給において、この問題が顕在化すると思います。この5年間、穀物生産は供給が需要を下回っています。世界の穀物在庫は30年来の低水準に陥っています。増大する需要を満たすだけの食料を生産できなくなったのは二つの理由があります。それは、地下水面の低下および地球上の温度の上昇によるものです。今の農家の人々は、農業史上初めて、一番高い気温環境の中で生産を余儀なくされています。これは、私たち現代の世代にとって、一番大きな課題だと思います。

【今井】

 今日のフォーラムでは、持続可能な社会・発展という、この持続すべきものを3つに分けて考えてまいりたいと思います。1つは、環境です。それから2つ目が、発展ということ。そして3つ目に、平和ということであります。この持続すべきものに対して、国ですとか、企業ですとか、あるいは市民といった、行動の主体になるものが、その力を最大限に引き出していくには、どうしたらいいのか。そのことを考えてまいりたいと思います。

第1部:持続可能な平和

【マータイ】

「もったいない」という精神は、決して自ら健康な、優れた生活の質を否定するものではありません。むしろこういった資源を効率的に、責任ある形で利用し、かつ無駄にしないということを奨励している言葉なのです。そして、「もったいない」という言葉には、もうひとつの意味があると教わりました。

 つまり必要以上のものをもらったような場合に、「こんなに、私は、ここまでたくさんいらないのに、いただいてしまった」という、謙譲の美徳的な精神もあるということでした。自然が私たちに与えてくれたものは、必要以上のものであると。自然がわれわれに対して、あまりにも親切で、こんなにたくさんくれたということは、それに対して敬意を持って、そして共感を持ってそれを扱い、かつ自然なしには、われわれは生き残ることはできない。自然がどうしても生存のために必要なのだ。そして自然に対しては、常に反省し、感謝を示さなければいけないのだということ。それが「もったいない」という言葉の中に含まれているのだということでした。
 ですから私は、この言葉が、ぜひ皆さんによって、自分のものとして受け止められてほしい。新しいコンセプトとして。いわばこのコンセプトを再発見してほしいのです。というのも、これは日本の文化の中でとても豊かなものであるからです。この言葉を使って、われわれが今まで教わってきたことというのは、自然から学び、自然を尊重し、そして自然に対して感謝の言葉を述べるのだと。

【ブルントラント】

 マータイさんが、ノーベル平和賞の受賞者になったということは、20年たって、世界が少し賢明になったんだということを表していると思います。今の時代においてさえ、中には批判をする人もいます。「環境がなぜ平和と関係があるのだ?」と。そこで私としても、自国で一部の人に説明をせざるを得ませんでした。「持続可能な開発なしには、平和はないのだ」と。1987年には、誰もそんなことは言いませんでした。ですから環境と開発、貧困、そして平和のあいだの関連、さらに繁栄との関係、人権など、これらの関連というのは、今や20年前よりも、ずっとそれが妥当なものになってきたのだと思います。関連性が強まっているんだと思います。

【ジョンストン】

 私たちOECDは、環境問題に取り組んでいる多くのNGOと定期的な関係を持っています。最近は、対話や相談を通して、お互いの距離が飛躍的に近くなってきました。私が生まれ育った時代は、環境や生態系のことを誰も深く考えていませんでした。レイチェル・カーソンが「沈黙の春」という本で、初めてこの問題に光を当てたのが40年前です。それを考えると環境を考える博覧会がこうして開かれるというのは大きな進歩だと思います。

【山本】

 今回の万博は、国・企業・市民ということで、初めて万博に市民の参加が呼びかけられました。これは、環境問題を片づけるときに非常に炯眼であったと思っております。市民の活動がない限りは、政治がいかにあっても、地球に住むこの市民が、環境を保全しようという理念のもとに、手をつないでいけば、国も企業も動かすことができるわけでございます。

【今井】

 さて、貧困や飢餓に苦しむ途上国の人々にとって、資源が枯渇していったり、あるいは環境が悪化していくということは、死ですとか、紛争といったものに直面することにつながっていく、恐ろしい問題であるわけです。命そのものが危機に瀕しているということも言えるかと思います。

【ジョンストン】

 OECD諸国というのは世界の中の先進諸国ですが、これら先進諸国は、この世界の天然資源を採掘し、それを利用して、便益を享受してきました。今、リサイクルをしていますし、補修をしていますが、今まではリサイクル、再利用、あるいは補修をしてきませんでした。先ほどご指摘があったように、私たちは先進諸国がやってきたことを、途上国に制約をして、やらせないようにしているわけです。
 環境汚染というものは、先進国がもたらしたものであり、途上国がもたらしたものではありませんが、途上国が同じことをしていれば、環境は完全に破壊されるといわれているわけです。しかしながら、私たちが人々の便益を移転し、技術、ノウハウを途上国に移転し、さらにそれを強化し、さらに発展させ、生活水準が先進国に追いつくような組織の形成をすることができれば、自然を破壊せずに発展していくことができると思います。

【ブルントラント】

 20世紀、人類は大きな繁栄を手にしましたが、健康という面では、その成功は平等に分配されたとはいえません。13億の人たちは、今もなお、進歩した医療技術の恩恵を受けていません。1日1ドル以下という極貧生活のなかで生きているのです。この不平等が人々の健康に与えている影響はひどいものです。最貧国では、平均余命が上昇しているとはいえ、4人のうち3人は、50歳になる前に亡くなっています。
 発展途上国の乳児死亡率は、先進国より7倍も高くなっています。発展途上国の子どもがはしかで死亡する確率は、先進国に比べて、1000倍も高くなっています。
 環境破壊が進行し、貧困や虐待が増え、資源が減少する時代ではなく、資源を維持し増やすための政策と科学技術を基本にした、新しい経済成長の時代が来ることを予見しました。こうした時代が来れば、発展途上国で深刻化している貧困問題を解決できると思います。

【マータイ】

 発展途上国が抱えている問題を、借金という面から考えてみましょう。その国では人々が貧しく、国家はとても借金を返済する能力がありません。それでも、政治や金融の世界で他の国との関係を保ちたい場合どうずればいいのでしょうか。答えは簡単です。森林を伐採するのです。土地を切り拓いて、家畜を過剰に放牧するのです。国家というものは、しばしば、自分の国民のことより、借金を返済するために資源を使うことの方を優先するのです。ケニアでは、国家予算の4割を借金の返済にあてています。国家は借金から逃れることができません。莫大な借金を抱えた国が、どうして子どもたちに無料の義務教育を与えることができるでしょうか。こうした国は、多くの場合、資源に恵まれていても、技術や知識を持っていません。そして資金もないため、資源に付加価値を付けたり、資源を世界市場に売りに出すことができないのです。
 こうした面で、先進国が発展途上国を支援する方法はあると思います。私たちが草の根レベルで努力していることのひとつに、グリーンベルト運動という活動があります。私と友人とではじめたこの活動は、草の根レベルで人々を助け、情報を与え、彼らの力になろうとしてきました。貧困を克服する手伝いをしてきたのです。しかし、それ以下のレベルというものがあります。私たちが話すだけでは効果がなく、国際社会の協力がない限り、とても助けることのできないような人たちがいるのです。
 こうした人たちのために行動を起こし、貧困の状態を改善していくことが必要なのです。

第2部:―持続可能な発展―

【ブラウン】

 アメリカは世界の人口の5%であるにもかかわらず、世界の資源の大多数を利用していると。それが30%にも相当しているといわれています。長いあいだそうでした。しかし、中国は最近、アメリカに代わって、世界最大の消費国となりました。例えば基本的な産品を見てください。穀物、肉、石炭、石油、鉄鋼。こういった分野で中国は、石油以外は、アメリカよりもずっと多く消費しています。鉄鋼は今、中国ではアメリカの消費量の2倍になっています。

 一方で自動車ですが、アメリカは4人に3台という普及率です。もし中国で、そこまで自動車が普及するようになれば、2031年には、11億台の車が走っていることになります。現在は、世界全体で8億台です。中国がわれわれに何を教えてくれるかといえば、欧米型の経済モデル、化石燃料をもとにした、自動車中心の使い捨て経済というのは、中国には向かないということです。そして、最も大事なことは、経済がグローバル化するなかで、石油や鉄など一定の資源に需要が集中する現在の経済システムは、先進国にとっても限界が来ているということなのです。つまり、新しい経済モデルが必要なのです。素晴らしいことに、この新しい経済モデルは、今すでに存在している技術によって十分可能なのです。
 この2,3年、世界の風力発電は年間3割以上のペースで増えています。ヨーロッパでは、4000万人の生活用の電力が風力発電で供給されています。2020年には、1億9500万人、あるいはヨーロッパの人口の半分が電力の供給を風力発電から受けるようになると予想されています。私たちは新しい技術をあと20年かけて開発する必要はないのです。新しいインフラを整備する必要もありません。すでに今、市場にある技術を使えばよいのです。世界のエネルギー経済の構造が変化するように、技術と経済をうまく誘導すればよいのです。私たち人類は、環境に配慮した、持続可能な経済を築くことができるのです。

【山本】

 私どもは、基本的にどういうふうな取り組み方をするかといいますと、健康、安全、環境、この3つにかかわるものは、すべてライセンスすると決めております。例えばカセイソーダを作るときに、水銀やアスベストを使わない、イオン交換膜法という製造方法がございます。日本は100%これに転換しております。そして、さらに省エネをこれで実現しております。一方、欧米はまだ60%ぐらいしか進んでおりません。
 そういった技術は今、世界に40社ぐらいライセンスいたしました。ただ、企業ですから、どうしても守秘しなければならない競争上の技術もあります。しかし、環境と安全と健康についての技術は、世界に積極的に出していくということを心がけております。

【今井】

 こうしてお話を伺ってきますと、われわれに残された時間が切迫しているということを指摘する人がいます。それから、お隣のブラウンさんのように、われわれには、そのための手段はある程度もう用意されているんだということも、いわれています。この国際的な枠組みの中で、どうやったら環境と人間とが一緒に生きていけるような、そして持続的な発展が可能な社会というものがつくれるのか。

【ブルントラント】

 私は、変化を促進し、説明責任がきちんと果たされる社会を築くためには、積極的な市民運動と市民参加がなくてはならないと思っています。もちろん、民主主義が全ての基本です。しかし、現代社会では、最大の行動主体であり政策決定者でもあるのは政府です。
 ですから、私たちはまず、政府に対して、現在の政策の欠陥を認識させなければなりません。
 そして、政府が市民とともに、新たな政策を実現しなければ、持続可能な発展は達成できません。世界はお互いに依存しあっています。私たちはまず、政府に対して国境を越えて協力しあうことを求め、政府にその責任を確認させることが必要なのです。

【ジョンストン】

 ブルントラントさんの報告書のことが、これまで繰り返し取り上げられてきました。しかし、この報告書は、もう二〇年も前に作られたものです。ゴルバチョフさんは言っていました。
「具体的な行動はなく、政治は何もしなかった」。
 しかし、私はこう指摘したいと思います。先進国では、経済発展に貢献しながら、社会の安定性を高める手段が様々に考えられてきました。その結果、資源の利用を減らすことや、資源を再利用することの重要性が認識されてきました。もちろん、経済や産業にとっては大きな負担です。また、消耗する資源の代用品を探すなど、新たなシステムを模索しています。私たちの目の前には大変大きな問題がありますが、悲観的になる必要はありません。問題解決の道は開けています。ブラウンさんは、それを「プランB」と呼んでいます。ゴルバチョフさんやラブロックさんの言葉を聞いていると暗い気持ちになりますが、私は、彼らより楽観的でありたいと思っています。
 彼らの警告によって、私たち自身が目覚め、行動することで、政治を動かそうではありませんか。

【山本】

 環境問題というのは、どうしても世界が一緒になって捉えていく問題だと思われます。例えば今、人口が4%のアメリカは、23~24%の炭酸ガスを排出しております。
 したがって、世界がともに参加して、環境問題を片づけていくという合意がなければ、この問題は非常に難しい問題になると懸念しております。
 農薬が問題になったときに、日本の技術者たちは猛烈に研究いたしました。その結果、1haあたり10キロの農薬を使っていたものが、今は10グラムの農薬で、しかも天敵にやさしい農薬を開発しております。これは開発途上国の食糧生産に非常に大きく貢献していると思います。
 このように、開発途上国にいろいろな技術を移転するときにも、その国情に最も合ったものを選ぶべきであり、先進国が一方的に押しつけるものではない。そのためには、多くのコミュニケーションを図らなければいけませんし、教育・啓蒙というものを積極的に続けていかなければならないと思います。IT技術がございます。世界にいろいろ教育・啓蒙をする手段を、われわれは持っております。希望を持って未来を創造していきたいと考えております。

第3部:―持続可能な環境―

【マータイ】

 私たちは未来と若者に焦点を当ててきましたが、これは大変素晴らしいことだと思います。若者や子どもたち、そして孫たちが未来に希望を持てることは大変重要です。私自身は、木を植えるというとても簡単なことを実践してきました。木を植えることは簡単ですが重要なことです。
 私たちが吐き出す二酸化炭素を木が吸収してくれるから、私たちは息ができるのです。そして私が学んだ知識では、人間が毎日呼吸によって吐き出す二酸化炭素を吸収してもらうには、一人当たり十本の木が必要です。私は、特に若い人には、希望を持ってもらいたいと思っています。
 若者が自信を持って未来に向き合えるようにしてあげたいと思っています。そのためには、私たち全員が若者を助け、自分の生活を見直さなくてはなりません。そして、繰り返しますが、「もったいない」という精神に敬意を払ってください。愛・地球博で、私は大変感銘を受けました。資源を有効に利用する技術、資源を再利用する技術、使用する資源の量を減らす技術など、科学技術の最先端を実感することができます。愛・地球博に来て、こうした技術を自分自身の目で見てください。そして情報に投資し、子どもたちの教育に投資することの重要性を認識してください。情報を上手に利用し、技術を高め、必要な資金を使って、子どもたちが将来、持続可能な社会を築けるようにしてあげてください。
 そして、すべては「もったいない」という精神から始まることを忘れないでください。

【ブラウン】

 環境問題はなぜ解決が難しいのでしょうか。その答えのひとつは、市場が生態系の価値を反映していないということです。簡単な例で説明しましょう。1998年の夏、中国の揚子江で広範囲の洪水がありました。この洪水は数週間続き、洪水による損害は300億ドルに上りました。この金額は中国の米の生産額に匹敵します。大変甚大な被害です。
 中国政府はその原因をずっと自然の猛威だと説明してきましたが、洪水発生から数週間後に記者会見が開かれ、人災でもあると発表されたのです。
 「政府は揚子江上流の森林伐採を許可してきたが、これが洪水に結びついた」という発表でした。
 中国政府は森林伐採を止めることを公式に宣言し、その理由として、立っている木は、切られた木の3倍の価値があると言いました。これはつまり、洪水防止機能を持つ森の木は、伐採された丸太と比べて3倍の価値があるということです。これは大変大きな意識革命だったと言えるでしょう。こうした意識革命を世界の至る所で行う必要があるのです。

【山本】

 この地球という美しい惑星は、地球市民の共有の財産なんです。自然は人類にとって、かけがえのない教師なんです。自然を愛する環境の心を育んで、足るを知る。マータイさんのおっしゃる「もったいない」の精神を広めていくべきだと思います。
 長い道のりなんですが、価値ある資源を経済成長だけに使うのではなくて、環境立国を目指して、くじけることなく、私どもは歩み続けていかなければならないと思います。持続可能な経済社会を実現して、世界に貢献する。これが、自然の資源をほとんど持たないアジアの小国、日本の責務だと考えております。

【ジョンストン】

 もう時間がないわけですから、国家の一番トップの指導者が、断固たる政治的決意をもって事にあたらなければいけないわけですが、政治的な意思というのは、世論に支えられなければいけません。世論を形成するのは若者です。若者の啓蒙が重要です。若者にとって大事なことは教育です。ですから大事なことは、若者を啓蒙していくことです。これが世論を形成し、指導者の意思決定につながるわけです。
 ブルントラントさんは、本の中で、これは1987年のレポートではありませんけれども、「酸性雨、気候温暖化、オゾン層の破壊、砂漠化、種の絶滅によって、今の政治家は死滅するであろう」とおっしゃっています。しかしながら若い投票者、選挙民は、そのときでも生き続けなければいけないということであり、80年後の世界、若い人たちがまさに世界を支えていかなければいけないわけです。ですから、その人たちを啓蒙していくことが大事だと思います。

【ブルントラント】

 私たちは、経済政策や法的な規制などを通じて、生産や消費の構造を変えていく必要があると論じてきました。そして取るべき解決策を明確にすることに焦点を当ててきました。
 しかし、ここで変化をもたらすものが何かに立ち戻って考えてみたいと思います。それは私たち一人一人の力です。教育や政治的な意思決定の重要性について議論してきましたが、これらは私たち全員が関与できることです。誰もがそれぞれの立場や能力を生かして貢献できます。会社で働いていても、NGO活動をしていても、教師として生徒を教えていても、母親でも父親でも、次の世代に対して、なんらかの働きかけをして、啓発することができます。そして、投票することが大事です。投票によって、行動する民主主義が生まれるのです。未来の子どもたちのことを考えて、今、私たちが変わらなければならないのです。

【今井】

 今日、強く感じたことがあります。それは今、地球が、自然が、なんとか生き残ろうとして、苦しい闘いを続けています。その中で私たち人間が、もしもその闘いに加わらずに、今まで通りの手前勝手な経済的な発展のみを目指して生きていくとすると、私たちは、自分で自分の首を締めることになってしまう。しかし、私たちが、国が、企業が、そして私たち市民一人ひとりが、それぞれの立場から手を携えて、今の状況をしっかり認識して闘っていけば、まだ地球は救える。私たちは、今の世の中というものを、持続させ続けることができるんだと。