EXPO 2005 AICHI JAPAN
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テーマの理解度・浸透度

未来の都市交通システムを描いたマルチ・モーダル・システムの実験場。

中村 文彦
横浜国立大学大学院環境情報研究院教授

 

 愛・地球博との関わりはIMTS(インテリジェント・マルチモード・トランジット・システム)に集約されます。96〜97年頃の開発初期段階からトヨタ自動車に呼ばれて意見を問われたりしてきました。無人隊列走行バスというコンセプトは人件費節減を目的としますが、愛・地球博では未来型のバスという見せ方に比重がかかっていました。しかし博覧会における実証実験の目的は、何台かのバスがあちこちから人を乗せてきて、あるポイントで合流し、そこから隊列を組んで別の目的地まで安全に人を輸送できるかとか、逆に隊列から分岐させたりすることを実験することですが、その意味ではまず評価できると思います。というのも、私が知っている限り、隊列無人走行の実現は世界初だからです。ヨーロッパ等で並んで走る例はありますが、連結したり離れたりして隊列を変化させるものはありません。またIMTSの車輌はかなり凝った車輌であり、聞くところによるとヨット製造におけるカーボン加工技術を導入して、ユニークな曲面デザインを作ったそうです。未来的なイメージを出す上では成功したと思います。ただ法律等のさまざまな制約のため、技術者達が考えていた実験をすべて全うできたとは言えません。

 IMTSの将来について考えれば、どこかの国の都市交通システムとして、そのままの形態での採用は期待できません。バス輸送に対する需要は途上国に多いのですが、途上国からするとIMTSは値段が高い。しかも人件費が安いのでIMTSの開発コンセプトの前提が崩れてしまうからです。一方、人件費が高い都市では路面電車に関心が集まる傾向があります。ただ、これまでの日本の新しい交通システムは、博覧会で初めて人々の前にその姿を現したものが多いと言えます。
 1976年の沖縄海洋博での新交通システム、1989年のアジア太平洋博覧会におけるガイドウェイバスの敷地内実験、1985年のつくば科学博における連接バス、等々さまざまな交通システムが提案されましたし、その内いくつかは後に現実のものとなっています。そう考えると、IMTSの実証実験が今後どんな成果をもたらすか楽しみです。

 愛・地球博においては、このような新しい個別の技術の実験場としての側面と、博覧会場の内外を結ぶマルチ・モーダル・システムの実験の場であったという側面も見逃せません。大きなイベントに関わる大量輸送はいくつも例があるので、今回の実験をけっして全て新しいとは思いませんが、便利で本格的なパーク・アンド・ライドの大規模な導入や、JRや私鉄を含めたアクセスの整備、リニアモーターカーの本格的な供用など、いろいろな交通手段・多様な選択肢を組み合わせて運用ができたのは評価できると思います。車社会のエリアで、これだけ大規模な、車をあまり使わない交通システムの実証実験が成功したという意味では面白い時代ですね。マルチ・モーダルを使って都市交通システムを再構築するというトータルな戦略を策定する上でも、愛・地球博は大きなヒントになったと思います 。

2005.8.30 談

 

<プロフィール>
新潟県生まれ。東京大学工学部助手、横浜国立大学工学部助教授、同大学院環境情報研究院助教授等を経て、2004年から現職。工学博士。専門分野は都市交通計画、交通施設計画、都市計画。

 

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