EXPO 2005 AICHI JAPAN
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テーマの理解度・浸透度

未来の明暗を決める鍵は、最先端の科学技術にある。

立松 和平
小説家

 

 21世紀の初頭に開催された愛・地球博では、いったい何が見えたのだろうか。ただ明るいだけの未来を信じるわけにはいかないし、豊かな物質文明を支えてきた科学技術は地球規模の環境悪化をもたらしている。そんな時代の瀬戸際に立つ我々に、どんな回答が用意されていたのだろうか。

 私が先日参加した中国での国際作家会議で話題になった共通するテーマは「環境」と「平和」だった。この二つは現在の世界における普遍的なテーマである。平和の創出に対しても、環境問題を解決していくためにも、博覧会で提示されたような先端的な科学技術が貢献できると信じたい。例えば地球環境問題に対してどういうアプローチができるのか、環境悪化をどこまで防ぐことができるかというテーマに対して、愛・地球博はいくつかの答えを見せてくれた。その一つがビークル(車)の分野である。どのように資源・エネルギーを効率的に使用するか、あるいは自然環境を守りつつ車と付き合っていくかという重要な課題に対してトヨタグループ館が提案したのが「i-unit」。これは知性を持った機械であり、人を乗せる最小のスペースで、かつ最小のエネルギー消費で移動できるビークルである。もちろん二酸化炭素を排出しない。しかも人の気持ちや体調までも察して音楽や情報を提供する。もう一つ、今回の博覧会で特徴的なのはロボットの成長ぶりを目の当たりにしたことである。人間の不完全さや未熟さ、曖昧さに寄り添いながら、情緒も共有する。また、淋しささえ認識できるものもある。このようなロボットの登場は人間の能力を拡張し、新たな感覚や知性をも開拓する可能性がある。地球環境問題に対する直接的な答えではないが、未来への希望をもたらしてくれる。

 科学技術なくして、環境問題や平和の問題は解決できない。というより科学技術は解決手段として極めて重要である。限られた資源を有効に、しかも将来世代のことも考慮しながら使うことや、循環する自然の中でどこまで無理なく人間が地球と付き合うことができるかということを科学的に見極めること。これらが現代社会に課せられた重要な課題である。それを自然の叡智から学ぼうということは、人間の叡智をさらに高めたり深めたりしようということと同じである。このような意味で、今回の博覧会のテーマは大変よかったと思う。
 また、自然の叡智というテーマに直接結びついた市民参加による環境教育の試みは大いに評価したい。このような真面目な取り組みを運営していた人達や、その周辺のボランティアの人々を見ると、愛・地球博の運営に市民が直接携わったという確かな実感があったのではないだろうか。環境問題という重いテーマでありながら、万博という国家的なプロジェクトに市民参加があったということ自体、評価しなければいけない。

2005.9.6 談

 

<プロフィール>
栃木県生まれ。早稲田大学政経学部卒業。在学中に「自転車」で早稲田文学新人賞。宇都宮市役所に勤務の後、1979年から文筆活動に専念。1980年「遠雷」で野間文芸新人賞、1997年「毒 - 風聞・田中正造」で毎日出版文化賞受賞。近年は自然環境保護問題に積極的に取り組む。

 

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