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テーマの理解度・浸透度

「環境時代」の最先端の成果を示すことができた愛・地球博。

伊藤 達雄
名古屋産業大学学長

 

 万博の目的は、国際博覧会条約によれば「民衆の教育を主たる目的とする催しであり、文明の必要とする手段、活動に関して、現在までに達成された進歩の成果および将来の展望を示す」とある。万博は常に時代の最先端の手段、活動が示すものでなければならないという意味だ。では、愛知万博では何を最先端として示すことができたのだろうか。1851年のロンドン大博覧会では巨大なガラスの殿堂(水晶宮)、1889年のパリ万博では鉄骨とエレベーターによるエッフェル塔が最先端を示すシンボルであった。1970年の大阪万博の時は、月の石により人類はついに月まで行ける技術を獲得できたということを示した。それから35年。ロボットやIT技術の成果も最先端を行くものなのだろうが、私は、愛知万博が“環境”をテーマにその多様な理念や技術の最先端を示したと思う。「愛・地球博」の“地球”は地球環境を意味していた。その地球環境が今どうなっていて、どうしなければいけないのかという大きなテーマを掲げ、その具体化のための英知が結集された。
 会場決定や造成の経過を見ても“環境”が主役だった。また、パビリオンの設計・建設・撤去においても環境に負荷をかけないように取り組んできた。グローバルループも閉会後には元の地形に戻し、資材はリユースするという。こんなことはこれまでの万博では考えられなかったことだ。計画し、開催し、撤去する全プロセスが、環境を軸に、その技術の集大成が万博会場で展示されたと評価したい。また冷凍マンモスも大変な人気を博している。冷凍マンモスの展示により、私は地球環境や気候変動のすさまじさを世界の人に訴えることができたと思う。このように、地球環境の問題を会場全体で演出をしている点から、今という時代の最先端を示した万博だと言える 。

 環境への配慮という点で特に強調しておきたいのは、私も関わった会場選定から開催に至るプロセスだ。愛知県が、当初会場として用意した瀬戸市の海上の森は、万博後は新住宅市街地開発法(新住法)によって新都市を作ることになっていた。だがこの計画が内外の環境保護団体や市民などの反対に直面して白紙に戻り、長久手会場を主会場とする現計画に落ち着く過程で決定的な役割を演じたのがオオタカだった。1999年5月、会場予定地内でオオタカの営巣が発見されたことから、愛知県は「国際博覧会場関連オオタカ検討会」を設置し、私が座長を努めることになった。オオタカが重要視されたのは、あらゆる生態系の頂点に位置する指標種であるからだ。自然の生態系は、動植物や昆虫、微生物など、多様な生命によって構成されているが、その頂点に立つのがオオタカなのだ。したがって、オオタカを都市開発のために追い出すということは、会場一体の自然のすべてを破壊するということである。環境保全としてのシンボル以上の意味があったわけだ。こうして海上の森の自然は守られ主会場は青少年公園(長久手会場)に移るのだが、この経緯を見ると、愛知万博での会場選定の経緯そのものがエポックメーキングとなり、日本の社会全体が「開発の時代」から「保全の時代」へと大きく舵がとられたと感じる。
 オオタカは2005年の春も無事に巣立っている。だがこの成果の背景にはあまり表に出ない努力があったことを知っていただきたい。というのも、青少年公園は、もともとオオタカのえさ狩り場だった。そこを博覧会会場にすれば狩り場がなくなってしまう。そのため、会場周辺の民有地や公有地を借り上げて、オオタカにとって好ましいえさ狩り場の代替地とするため森林整備もした。人手の入っていない里山は雑木が密に生い茂ってオオタカがその中を自由に飛べないし、陽も入ってこないのでオオタカのえさとなる小鳥の楽園にはならない。その森林を間伐して、小鳥が住みやすい好ましい森林空間にした。オオタカのえさ狩り場の代替地を人為的に造成したのは、わが国で初の試みであった。オオタカを保護することは、人と自然が接する里山という日本の典型的な自然環境に光を当て、守ることに通じる。そういう意味で、会場予定地に生息するオオタカを守ったことは、開発志向から環境保全へという社会全体の流れを変える上で記憶すべきできごとだったと思う。生態系を保護するということはどういうことなのか。人間が自然の生態系と共存するというのはどういうことなのかを、万博会場を造るプロセス全体の中で示すことができた。

 環境問題とともに、今回の万博ではこれからの社会システムがどうあるべきかのヒントが提示されている。例えば、リニモや無人隊列走行バスのIMTSは新しい都市交通システムの新技術を示唆している。また会場間輸送に貢献した燃料電池バスは、石油後のエネルギー問題に貢献しうる。NEDOによる新エネルギー実証プラントは温暖化対策の重要なキーテクノロジーとなるだろう。このような技術は、経済発展のために効率性のみを求めた今までの論理を乗り越える新しいシステムを築くことに貢献するだろう。いずれも、人が人らしく快適に住み、かつ安全に永住できる社会を構築するための技術的ヒントではあった。ただ、もっと全体をうまく構成して、まとまりのある強いメッセージとして発信してほしかったと思う。

  市民参加については、NPO、NGO、つまり市民が公の場に参加できるということを体験し、新しい時代の幕開けに貢献したと評価したい。従来のオリンピックや万博では、市民というステークホルダーは会場づくりや会場運営、イベントについてもほとんど参加できていなかった。今度の万博ほど会場づくりにも環境団体が強く発言し、政府も主催者も自治体も、その意見を重用したことはない。市民の意識に逆らうような行政主導のイベントは、今後はもうできない、ということが確認できた。

  国際交流の実現という意味では万博の実績を大事にしていきたい。その取り組みは中部国際空港とセットにして考えるべきだろう。産学官そして市民の力と知恵を結集して効果的なプランを構築していきたいと考えている。                          

2005.9.16 談

 

<プロフィール>
東京教育大学大学院理学研究科博士課程地理学専攻修了、理学博士。三重大学(助手・講師・助教授・教授、人文学部長)、四日市大学経済学部教授を経て、2000年から現職。 この間、文部省在外研究員(シカゴ大学留学)、シカゴ大学客員準教授、ホフストラ大学(ニューヨーク)客員教授を努め、現在、日本学術会議会員、国土審議会特別委員、日本環境共生学会会長、愛知県地球温暖化防止活動推進センター長、(社)環境創造研究センター理事長などを兼務。 専門は、都市地理学、地域経済学、環境政策。

 

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