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市民参加拡充に向けた協会メッセージ

1.はじめに

愛・地球博は、市民が博覧会の開催について議論する愛知万博検討会議という特色ある過程を経て、いよいよ市民による展示や催事など内容作成への本格的参加が実現される段階にあります。
国際博覧会における本格的な市民参加は初めての試みであり、各方面で様々な議論があります。先般「市民参加の検証と拡充のためのフォーラム」が名古屋大学・後房雄教授のコーディネートにより開催されましたが、3月12日にその報告書も提出され、ご意見をいただいたところです。
このような機会に、協会として市民参加をこの博覧会の新しい挑戦の一つとして取り組んで行く決意をこめて、愛・地球博の市民参加に積極的に取り組もうとするすべての市民の皆さんに対してこのメッセージを送ります。

以下、あらかじめこのメッセージの性格について触れさせていただきます。
(1)今我々が取り組もうとすることはまさに海図のない航路です。今回ここで示す市民参加拡充への手だてについては、具体的な裏付けがまだ不十分な部分もあります。執行機関としての発言は一定の責務を伴うことも事実ですが、今後の過程において修正点や誤謬点が見つかれば、率直に反省し、その都度改善に努めます。また、今後事業の企画・実施の過程において、市民参加に関して重要な動きがあれば随時公表していくことも考えております。
(2)市民参加には多様な意見があり、過去の市民参加の評価もまだ定まっていない状況です。一方で、協会が発表するこの文書は公式的メッセージという性格にならざるを得ず、協会が市民へ呼びかける際に必要と思われる事柄の発信を目的としたメッセージとなっていることを断らせていただきます。

2. 博覧会の理念~なぜ市民(NPO/NGO)なのか

愛・地球博は、21世紀の人類が直面する地球的課題の解決の方向性と人類の生き方を発信するために、多くの国々の参加のもと、地球時代の新たな国際貢献として開催するものです。21世紀の人類が抱える多様な問題の解決方法を、“自然の叡智”に学ぶ様々な文化を世界中から持ち寄ることにより、新しい文化・文明の創造、地球大交流を目指します。この挑戦的な試みは、世界平和の実現と維持にも寄与するものと思います。
これまでの博覧会が常にその時代の最先端を紹介するショーケースであったと考えると、現代において市民やNPO/NGOの社会を構成する重要な要素としての役割が芽生えはじめており、この博覧会の理念を実現するためには、新たな市民参加のあり方、さらには地球市民としての連帯のあり方を世界に向け発信することは大変重要です。
その意味で愛・地球博では、国家や企業と並んで市民やNPO/NGOなどの地球社会を支える多様な人々の参加による幅広い交流の場を提案しており、協会が市民参加を語り、また参加を呼びかける際には、「21世紀を動かす時代のエンジンは市民である」と強調しているのです。

博覧会の市民参加については、(1)開催の是非に関する市民参加と(2)開催を前提にどのような市民参加を実現するかを区別する必要があります。執行機関としての協会の立場からすれば、(2)の議論をさらに活性化して、市民参加の価値を最大限に高めることに軸足を置いていることはいうまでもありません。しかしながら、従来この両者が混同され議論が混迷してしまうケースもあったと思われます。我々としては、(1)の議論は後に述べる市民参加の一般ルールの集積に収斂させることがより現実的な対応であると考えます。

我々がこのような市民に期待するものは、21世紀の地球的課題や社会的要望に対して、いわゆるヒエラルキーを前提とする既存の枠組みでの発想とは異なった、柔軟な対応ができる潜在的能力です。
このことは決して市場や政府機能の隙間を埋め合わせるだけの消極的な機能のみを指すものではありません。
自らのミッションに忠実な活動は、多くの市民の共感を呼び、様々なボランティア活動を有機的に結ぶ力を秘めています。また、情報化社会を象徴するインターネット社会の到来が、市民同士の結びつきを一層強固なものとし、その活動領域は国内にとどまらず、海外へもきわめて容易な形で広がりをもつようになっております。一方、市民活動にも様々な方向性があり、広がりが出てきているので、市民間で摩擦を生む可能性も否定できません。
このような市民活動は21世紀の国際博覧会の有力なコンテンツであることは間違いありません。視点を変えることにより、問題が異なって見えたり、その本質に気づくことはよく経験することですが、その意味で我々は博覧会の場において様々な視点に立つ市民の参加を求めています。また、市民同士の対話は、視点を変えること、お互いの立場を認めること、そして、問題点を見つけ解決策を見出すことに有効です。愛・地球博における市民の様々なソリューションの展開が、共鳴を呼ぶ活動として、さらに大きな広がりをみせることに我々は期待しています。
さらに、その活動を2005年で終わらせるのではなく、継続的な問題解決にむけての自発的な活動へと結びつけ、地域に継承していきたいと願っています。時がたてば価値を失うのではなく、時とともに輝きを増す新しい価値の発見が市民参加に求められる結果なのです。
そのような市民参加の展開を博覧会の場に創出したいと思います。

3.多義にわたる市民参加

具体的にどのような市民参加を実現するかについては、既に一昨年に発表した基本計画に基づき、市民参加の核となる主な事業として 「市民交流プラザ・交流広場」「会場運営のボランティア参加」「地球市民村」「催事参加」 を挙げております。それぞれの事業構造は以下のとおりですが、多様な参加を促進するための市民の役割としては、意思決定に関わるものから補完的なものまで、事業ごとでも事業内でも大きく差異があります。

なお、ここで我々が考える市民とは、自らの労をいとわず、確固たる意思をもって行動する個人、つまり自立した主体的存在としての個であります。その点ではNPO/NGOも同じく自立した主体的な個人同志のネットワークであると考えます。業務委託のパートナーとしてはNPO/NGOと市民では峻別する必要もありますが、市民参加のパートナーとしては、参加スタイルには一定の差、すなわちNPO/NGOを対象としたもの、個人としての市民を対象としたもの、どちらも対象としたものなどがあるものの、「市民参加」という理念を語る上では、基本的に両者を区分する必要はないものと捉えております。

(1) 「市民交流プラザ・交流広場」 は21世紀の地球がかかえる課題に対して、世界中の市民がその解決にチャレンジする市民参加パビリオンです。参加市民がもつネットワークを活用し、多様な価値観に生きる市民が、お互いの差異を認めながら交流することを目指します。我々にとってかけがえのないものの持続可能性を考えることをテーマに、お互いの対話の中で課題解決法を世界に発信していくプロジェクトを生み出します。現在、第1次の応募メンバー354人により、課題についての議論を始めています。これから開幕までの2年間、様々な市民が協働する中で、さらにその輪が広がり、市民が共有できるソリューションが展開されることと思います。
(2) 「会場運営のボランティア参加」 としては、自立した任意団体として昨年12月にボランティアセンターが設立されました。会期中は来場者に対する「おもてなしの気持ち」の実践を、会期終了後は地域社会にボランティア風土を継承することを目指しています。現在、「研修」「参加支援」「エコ」「福祉」「国際」の5つの部会に分れ、実施計画を策定中です。ボランティアの受け入れ体制が整う来年早々には、多様な個の力の参加を呼びかけたいと思います。
(3) 「地球市民村」 では、国内外の国際的なNPO/NGOが集い、持続可能な社会づくりへの多様な試みを共有することを目指します。2005年から始まる国連の「持続可能な開発のための教育(ESD)の10年」と呼応し、連携を図ることをねらいとしています。参加の形態は申請窓口となる国内NPO/NGOを「ホスト」に海外NGOを「ゲスト」にその協働での参加を募ります。今年7月から参加NPOを募集し、それぞれのアイディアを審査の上、参加団体を決定し、開幕へ向けて準備を進めます。
(4)催事は会場に賑わいを創り出すことと同時に、この博覧会が伝えたい様々なテーマやメッセージを発信するという重要な役割を担っています。
「催事参加」 を通じて市民自身が様々なメッセージを発信する場として、また、博覧会全体を共に盛り上げる場として、多くの市民に参加の可能性が開かれています。ただし、国際博覧会という舞台にふさわしい内容であるかどうか、場所や時間など物理的に可能であるかどうかなどは、参加の可否の判断材料となります。

以上が多様な市民の要望を受け入れ、多彩な展開を図るために、市民参加の核として位置づけた協会の事業です。今後、事業ごとに意思決定の仕組みを整備し、そこに意欲ある多数の市民の参加を求め、事業者である協会と参加する市民が協同して国際博としてのクオリティのある事業を作り上げることになります。そのためには、参加の程度に応じて市民が責務や労力を負担する必要があります。その途は決して容易なものではありませんが、その先にしか来場者の感動を呼ぶ市民参加の実現はありえません。

4.市民参加の検証結果について

これまでを振り返ると、市民参加を実現する上での事業者側の問題点とともに開催の是非や会場問題の経緯について、様々なご意見をいただいております。特に後者をメッセージとして語ることが、そもそも事業執行者が採るべき態度であるのか、その領分を越えることにならないか大いにためらう面もあります。基本的には、今後の事業の企画・実施の各段階において一定の成果として発表する理念やメッセージの中で、我々の判断をくみとっていただきたいと思います。

(1)市民参加の核となる事業とその基本的な考え方は既に示したとおりです。これらについては、原則として公募形式を採用し、透明性と公平性を確保しつつその選定にあたります。手続きにおいて参加市民の疑義が生じないようにすることは、市民参加を進めるための最低限の前提条件です。
また、市民による新たな企画提案の門戸を閉ざすものでもありません。市民参加の価値を最大限に重視する立場から、真摯に検討し協会の事業として取り込むか否かを判断します。しかしながら、実際にはその判断に際して会場のキャパシティーや経済的な制約、場合によってはBIEルールなど様々な条件面をクリアーする必要があることも見逃せません。意欲的で博覧会全体のコンセプト実現のため必要だと判断し、かつ条件面が解消できた場合に新たな協会事業として位置づけようと思います。
博覧会の市民参加を強いてアーンスタインの「市民参加の8段階」に照らし合わせれば、一部「(7)権限委譲」するところもありますが、金銭的な負担あるいは内容の質的な保障について博覧会協会が責任を持つことを考えれば、総じて「(6)パートナーシップ」の段階にあると思います。今後は市民を重要なパートナーとして位置づけ、更に詳細な実務を詰めながら、博覧会事業に取り組んでいきたいと思います。
(2)また、市民からの意見・提案について、きちんと検討し、その結果を知らせる責務について不十分であった、あるいは協会職員の異動に伴い、継続した話し合いの場が持ちにくかったことも指摘されています。
協会側の事情としては、そもそも今回の博覧会の計画自体が紆余曲折したことや早い段階での具体的な参加提案については、全体計画が熟さない段階で、明確な返答がしにくかったケースがあったことなどが考えられます。また職員の中には、はっきりノーと返答することにいくばくかの躊躇があった場合もあったと思われます。
しかしながら、そのような態度は市民を重要なパートナーと位置づけたとき決して正しい対応ではありません。この機会に協会としての不明な部分については、謙虚に受け止めたいと考えます。今後は「可能性のない提案については、できる限り即答すること」「今すぐに返答できない場合は期限を明示の上で回答すること」など、職員の研修を通じて、レスポンス不足との汚名返上に努めてまいります。
一方で協会職員の異動については、協会が時限的組織であるという性格上、プロパー職員を擁することが難しく、出向者で構成されている組織ということはやむを得ないことです。ただし、残り2年を迎えた現在は、すべての職員が最後の段階までこの仕事に従事する方向で出向元の協力を得ているところです。
(3)開催の是非に関する市民合意及び愛知万博検討会議に関する問題についても、様々なご意見をいただいております。
愛知万博検討会議については、幅広い市民合意の形成に至っていないとの批判もありますが、市民と協会が同じテーブルで熱心に議論した点、あるいは現行の会場計画の基盤になっている点などの評価もあることは事実です。事業執行者として過去にも将来にも時間的制約があり、仮に最小限の民主主義の正当性しか確保されていないとの批判があるとしても、それは現時点においては甘んじて受け止めるしかありません。ただ、最終的な評価は博覧会終了後になされるべきと思います。

5.市民参加の拡充に向けて

博覧会の意義の一つとして、社会実験の絶好の場であることが挙げられます。今回の博覧会は計画自体が紆余曲折したことは、紛れもない事実です。その過程の中で協会のみならず多くの市民までもが、多くの時間とエネルギーを費やしてきました。また、今後も市民参加事業を進めるなかで様々な課題に直面することがありえます。我々の経験は一博覧会の運営・実施の範疇を超えて、社会における市民参加のあり方を検証するモデルケースになりうるものと考えます。

そこで、博覧会協会は将来の民主主義と市民参加の重要な実験のために、各事業を横断した新たな組織をすみやかに作ることを考えています。その機能としては、(1)市民の応募に対して、各事業単位の視点だけではなく、博覧会事業全体を見通した視点を持つ、(2)参加者の選定時に透明性や公平性が保たれているかどうかを確認する、(3)各事業が当初に掲げた目標通りに進んでいるかを評価する、(4)モデルケースとしての実例の蓄積、といった点を特徴として持つようにしたいと思います。
いずれにしても新たな組織づくりの意義は、事業者間及び各事業単位の縦割りで市民参加を進めるのではなく、広く横の繋がりをもつことにあります。さらには、各事業毎の市民代表をまじえ、忌憚のない議論をする事により、お互いに切磋琢磨し、より意味のある市民参加にしていきたいと思います。
今後の展開で生じる様々な問題についても、その体制の中で処理し、博覧会の範疇を超えた市民参加のルールを蓄積し一般化して、最終的な成果として博覧会終了時に公表し、地域や市民に還元していきたいと考えます。

また、博覧会が時代の最先端を紹介するという意味では、21世紀の社会イメージの発信方法の一つとして、博覧会の運営方法そのものが充分に発信力をもつと考えます。
つまり、市民は事業参加のパートナーだけではなく、事業運営のパートナーしても考えられます。あくまでもコストなどのあらゆる条件の比較が前提となり、実現困難な部分も出てくるでしょうが、会場における様々なサービスについて、従来の発想とは異なった視点で実験的にNPOなどに業務を委託することを検討しています。

厳しい経済環境のもとで開催する今回の博覧会においては、上記の諸点を行うにあたっても、現状では篤志を仰ぎながら進めざるを得ない面もあります。協会としては、改めて市民参加のもつ可能性と重要性について広く訴え続け、可能な限りの拡充策の実現にこぎつけたいと考えるものです。