最新技術を駆使した演出などで、愛・地球博の一番人気スポットになっている企業パビリオンゾーン。来場者は、ショーや映像といったパビリオンの表の華やかな面に注目しがちですが、企業パビリオンごとに環境問題へのさまざまな配慮、取り組みが行われています。企業パビリオンは、日本を代表する企業・グループが出展しています。環境対応をまとめてみると、来るべき循環型社会の輪郭が浮かび上がってきます。
マダガスカル共和国はアフリカ大陸東のインド洋に浮かぶ島国で、現地固有の動植物種が多数生息しています。その生息域である原生林はすでに90%が消失している状況で、同国に残る最大の原生林であるマキラ森林も開発の脅威にさらされています。
三菱未来館には、ナットソース・ジャパンが発行した「温室効果ガス排出削減証明書」が展示されています。
三菱未来館@earthでは、出展にあたってパビリオン建設から閉幕までに発生する二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を算出しました。そして、これらを吸収、相殺させることができるマダガスカル北部の原生林、マキラ森林の保全活動に財政的支援を行いました。
マダガスカル政府は、国際環境団体の「コンサベーション・インターナショナル」や「ワイルドライフ・コンサベーション・ソサイエティ」と連携して、この森林の保全プロジェクトに取り組んでいます。
三菱未来館は、温室効果ガス排出量取引の仲介業を行う「ナットソース・ジャパン」を介して、この保全活動によって削減される二酸化炭素量を、出展で排出される二酸化炭素量に十分見合うだけ購入しました。この費用で森林を守り、二酸化炭素の発生が抑えられるという仕組みです。
「大型イベントでは温室効果ガスが増加することは不可避ですから、少なくともその増加分を地球のどこかで削減し、地球規模で相殺することは、エチケットではないでしょうか。こういう習慣が定着するといいですね」と同館では話しています。
カード裏面には環境ポリシーを印刷。スタッフは常時このカードを携帯して、環境ポリシーを心に留めています
三井・東芝館は「地球 生命(いのち)の輝き~新しい地球を次世代へ~」というテーマのもと、来館者が環境問題について考えるきっかけをつくろうとしています。
「『これが環境によい』と押し付けるのではなく、ショーの感動から環境の大切さを実感したり、水に覆われたパビリオンに来てもらい、エアコンがなくても涼しいことを体で感じたりすれば、おのずと環境に優しい行動に結びつくと考えています」と同館では説明します。来館して感じた何かを家族や友人に話す、環境に優しい行動が周りの人にも刺激となる。こうした「環境コミュニケーション」は、運営面でも生かされています。
開幕前にはスタッフ全員で、同館のこうした環境ポリシーについて研修会を行い、ポリシーを印刷したカードを常時身に着けることを義務付け、スタッフ用通路にも掲示しました。また、環境について気づいたことを報告する制度を設けたところ、スタッフの意識が変わり、「生活を環境の視点から見直した」といった声が寄せられています。
これからの循環型社会では、再生可能な自然エネルギーの風力や太陽光活用が、ますます重要になります。
愛知県田原町にある風力発電機。ローター(回転部分)は直径80メートル、全高は107メートル
トヨタグループ館の電力は、愛知県田原市にあるトヨタ自動車の工場敷地内の風力発電でまかなっています。風力で発電した電力を直接パビリオンに送電しているわけではありませんが、パビリオンで消費する電力相当分を発電して中部電力へ供給しています。間接的に風力発電を利用するという発想ですが、結果的には風力発電分だけ、石油や石炭などを使用する発電量を減らすことができます。
田原市は風が強い地域で、トヨタグループの関連企業では他に12の風力発電機を設置し、風力発電をしています。トヨタグループ館が使用する風力発電機は、1枚の羽の長さが40メートル、年間で一般家庭1600世帯分の電力が供給できる大規模なものですが、ワンダーサーカス電力館では、ローターの直径が55センチで、風速3メートルのそよ風でも発電できる、身近な風力発電システムが稼動しています。
環境というテーマを大きく掲げた愛・地球博の合言葉は「3R」。リデュース(ものを大切に使い、ごみを減らすこと)、リユース(使えるものは、繰り返し使うこと)、リサイクル(ごみを資源として再び使うこと)の頭文字「R」を一体にしたのが3Rです。華やかな企業パビリオンの裏側にも、3Rはしっかり根を張っています。
石炭灰などを使用した無焼成レンガの縁石と流木のチップを敷き詰めた地面
ワンダーサーカス電力館の前庭は、電気事業から生じる廃棄物の再利用・資源化を、大規模に実践しています。
石炭を燃料にしている火力発電所では、廃棄物となる石炭灰が年間640万トンも発生します(2003年度)。電気事業連合会は、廃棄物の削減と再資源化を進めており、石炭灰もセメント原料などとして使われています。
前庭の花壇縁石には、石炭灰と送電線の絶縁体として使う陶器のくずなどを固めたレンガを使用しています。このレンガは焼き固めないため、焼成に伴う二酸化炭素の発生もなく、環境上のメリットもあります。現在では商品化されて需要が高まっており、石炭灰の新たな活用方法として注目されています。また、火力発電所の取水口に漂着したクラゲや貝などを肥料化し、前庭花壇に使用しています。
前庭は、水力発電用ダムに堆積する土砂や、ダムに漂着した流木のチップから作られた路盤材が敷き詰められています。ダムにとっては邪魔者の土砂や流木が、透水性とやさしい踏み心地を持つ地面に生まれ変わっています。
ガスパビリオンでは、稼動中のガスコージェネレーションシステム実機を屋外に展示