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エコロジーレポート

省エネ人工霧で夏の屋外に涼 新開発のドライミストが大活躍
極小の霧を発生させるドライミスト

極小の霧を発生させるドライミスト

夏本番となった愛・地球博会場は霧の名所です。暑くなると長久手会場16カ所、瀬戸会場1カ所の計17カ所で、さまざまな霧が発生します。なかでも「ドライミスト」と呼ばれる、人工的に細かな霧(ミスト)を発生させる最新装置が採用され、屋外空間に効率的に涼を提供しています。

エネルギー消費はクーラーの20分の1

このドライミストは、発案者の辻本誠教授(当時名古屋大学、現・東京理科大学)を中心に、名古屋大学の3研究室や民間企業5社の産学共同で開発しました。経済産業省中部経済産業局の地域新生コンソーシアム研究開発事業として採択され、開発期間は平成15年6月から約2年間にわたりました。原理は「人工的に霧をつくり蒸発させ、水が液体から気体(水蒸気)に変わる際に熱を奪い周囲の温度を下げる」と単純です。

しかし (1)ヒートアイランド現象の緩和 (2)省エネルギー (3)夏の不快感解消――の3点に留意して開発され、これらを実現する高度な制御システムの確立を経て、今回の万博で初めて本格的な実用化にこぎつけました。涼効果として気温を2、3度下げるだけでなく、そのためのエネルギー消費が、従来のクーラーの20分の1と、格段に少ないのが特徴です。都市部の気温が郊外より高くなる「ヒートアイランド現象」の緩和技術として、期待を集めています。

グローバル・ループなどに設置

ドライミストが体験できるのは、長久手会場のグローバル・ループの日よけテントの下10カ所(計5800平方メートル)とオーストラリア館の待合場所(計240平方メートル)、企業パビリオンゾーンのワンダーサーカス電力館の待合場所(約300平方メートル)です。ドライミストは約2000個のノズルから噴霧されますが、水を押し出す穴は1000分の16ミリにすぎず、来場者の顔や服が濡れる前に蒸発してしまう、極めて細かな粒子の霧です。

柔らかな霧を噴出すワンダーサーカス電力館のドライミスト

柔らかな霧を噴出すワンダーサーカス電力館のドライミスト

噴霧量はクスノキと同量に設定

また、「植物が水分を蒸散させて温度を下げる作用を代用したのが、ドライミスト」(辻本教授)とあって、最終的には噴霧する量は、クスノキが空気中に放出する量と同じに設定されました。具体的には1立方メートル当たり、1分間に7.5グラムが放出されるよう、制御されています。

一方、小さな霧をつくるだけなら、より細い穴から強い力で水を噴霧させれば可能だといいます。しかし、これだとエネルギー消費が多くなります。省エネ優先のドライミストは、効率的な圧力のかけ方を極めたほか、辻本教授ら開発陣によると「省エネと霧の細かさを共存させたのがドライミストのポイント」としています。

愛・地球博会場に設置されているドライミスト、ミスト
グローバル・コモン5 建物の周り全体にミスト
ワンダーサーカス電力館 入場待ちエリアにドライミスト
電力館前広場にミスト
グローバル・ループ テントを支えるポール部にドライミスト。10カ所に1824個のノズルを使用
三菱未来館@earthもしも月がなかったら 観覧出口の壁面緑化部にミスト
バイオ・ラング グローバルハウス側の壁面にミスト。清涼感の演出も兼ねる。
名古屋市パビリオン「大地の塔」 塔の3辺にミスト(地上から約1/3の高さまで)
グローバル・コモン1 エントランスデッキ周辺部にミスト
日本広場 竹プランターベンチ上部の噴射機にミスト
こいの池北側の大花壇 花壇の中の数個の噴射機にミスト
日本庭園 庭園奥の巨大岩付近の橋にミスト
長久手愛知県館 入場待ちエリアの屋根にミスト
ガスパビリオン 屋上の休憩エリア中央部にミスト
瀬戸ゲート ゲート横の庭園エリアにミスト
地球市民村 北側入り口の向かい側にミスト
風の広場 すべり台にミスト
アンデス共同館(グローバル・コモン2) パビリオン正面全体にミスト
オーストラリア館(グローバル・コモン6) 入場待ちエリアと屋外のテーブル周辺にドライミスト

天候状況に応じて最適に噴霧

天候に応じて最適に噴霧されるドライミスト

天候に応じて最適に噴霧されるドライミスト

さらに、天候に応じてドライミスト噴霧を自動制御することで、無駄なエネルギー消費を抑えています。10分以上気温が27度を超えると噴霧が始まり、25度を下回ると自動停止します。ドライミストが飛散して、効果が弱まる風が強い時は、風自体で涼しく感じるため噴霧されません。また、霧の噴出は湿度を上げるため、蒸し暑さを感じさせないよう、湿度が80%を超えると自動停止するといった具合です。こうした制御は、各種センサーを組み込み、システム化することで実現されました。

おすそ分けも可能な涼を目指す

ドライミストが目指した涼は、涼しさを満喫するより、周りにおすそ分けも可能な気温を2~3度下げるだけの「ささやかな涼」です。

暑ければクーラーをつける、というのは現代ではごく当たり前になっています。確かに室内は涼しくなりますが、屋外は排熱により、もっと暑くなってしまいます。一方、ドライミストは「暑い」を「少し暑い」に緩和するだけですが、水の蒸散による気温引き下げ効果を周りにもおすそ分けできます。

ドライミストの涼でくつろぐ来場者

ドライミストの涼でくつろぐ来場者

ヒートアイランド現象の原因の一つに、都市開発によって緑地面積が減少したことが挙げられます。そこで、近年、国や自治体は、都市に緑を増やす試みとして、ビルの屋上を緑化する事業に取り組んできました。建物の床面積に応じて屋上や壁の緑化を義務づける条例を設ける自治体も登場するなど、ヒートアイランド対策は都市環境面で重要度を増しています。

しかし、屋上緑化は、日射に対する吸収率が上がるため、総合的な気温引き下げ効果は割り引く必要があるという見方もあります。その点、ドライミストは、吸収率は変えず、消費エネルギーがとても小さいので気温引き下げ効果のみ受けられる仕組みです。

涼の演出で都会に潤いを

オーストラリア館ではドライミストが来場者のティータイムに涼を演出

オーストラリア館ではドライミストが来場者のティータイムに涼を演出

以前から、人工的な霧に光を反射させて清涼感や幻想感を演出するミストの活用は、普及しています。

長久手会場の愛・地球広場の大舞台に隣接して、毎夜繰り広げられる「バイオ・ラングシンフォニー」を盛り上げているミストは、すぐには消えず、空気中を漂って、赤、緑、青、黄と幻想的に光りながら涼を与えます。霧が漂う様子は、目でも涼しく、すべて蒸発することなく、木や植物にも水分を届けて潤いを与えます。

ドライミストも、予想以上に演出効果を発揮しています。グローバル・ループでは、多くの人がベンチに腰掛けて霧を眺め、オーストラリア館では、ドライミストが、来場者のティータイムにそよ風を運び、涼の演出を添えています。広場やイベント会場などでは、アミューズメント効果も織り込んだ需要が生まれると期待しています。

思いをこめて「なごミスト」と命名

ビルが並ぶ摩天楼。うだる暑さの中を歩き急ぐと、建物の壁からドライミストの白い霧が―。立ち寄ったカフェでは、オープンテラスにドライミスト、蒸散効果で店内にも涼やかな風を運ぶ―。

暑さを和らげるグローバル・ループのドライミスト

暑さを和らげるグローバル・ループのドライミスト

都心の屋外・半屋外空間の新しい省エネ冷房装置として、愛・地球博で広くお披露目されたドライミストは、「なごミスト」と名付けらました。うだる暑さのなか、ホッと息のつける新しいオアシス的空間づくりを提供したいという、開発者の思いがこもっています。