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エコロジーレポート

日本の森林を守る間伐材活用 募金で床材、新技術で建物の柱に

 愛・地球博の会場内で、ちょっと節目の多い木材を見つけたら、この木材の活用が日本の森林の将来を、左右するかもしれないことに思いをはせてください。愛・地球博では、この「間伐材」と呼ばれる木材活用を積極的に行うと同時に、新しい使い方を提案しています。

グローバル・ループに間伐材使用 9000人が募金

 長久手会場にある「中部千年共生村」。このパビリオンは、再生可能な生物資源を活用した千年先まで持続可能なものづくりをテーマに、中部9県が共同出展しています。パビリオン屋上には「グローバル・ループ募金」の募金者(企業、団体を含む)9138人の名前が刻まれたモニュメントがあります。

 募金は愛知県森林協会などが発起人になり、地元愛知の間伐材をグローバル・ループの床に使ってもらおうと行なわれました。集まった約1700万円で、愛知県産のスギの間伐材を購入し、中部千年共生村前の幅3.5メートル、長さ500メートルの部分、約50立方メートルを提供しました。

 募金活動について愛知県森林協会は「間伐材の活用がなければ、森林自体が衰退するということを知ってもらうことも目的でした」と話しています。

中部千年共生村の屋上にある休憩所。募金者の名前を刻んだモニュメントがあります

中部千年共生村の屋上にある休憩所。募金者の名前を刻んだモニュメントがあります

グローバル・ループを歩くと、長久手愛知県館、中部千年共生村の前の片側1列だけ、床の木目が他と違っているのに気づきます

グローバル・ループを歩くと、長久手愛知県館、中部千年共生村の前の片側1列だけ、床の木目が他と違っているのに気づきます

博覧会協会の施設で1300立方メートルを使用

 密集しすぎた人工林の木を伐採し、間引きすることを間伐といい、間伐された木材が間伐材です。立派な木材になる前のものですから、節目が多く見た目が良くない、細くて強度が足りないため使い道が限定されるという欠点があります。それでも間伐材の活用が求められているのは、間伐が人工林の育成・循環に不可欠なためです。

 グローバル・ループの床材以外でも、間伐材が会場内で積極的に利用されています。博覧会協会が建設した会場施設(パビリオン以外)には、1300立方メートルもの間伐材が使用されています。延べ床面積132平方メートル(40坪)の木造家屋に換算すると、54軒分に相当する量です。

 代表的な使用場所は、弁当を食べる場所として人気のある北ゲートのデッキの床や、EXPOドーム、EXPOホールの外壁です。また、北エントランス付近のレストランの建物にも多用されています。和風建築の木材としては、伝統的に節目のない木が好まれてきましたが、自然に恵まれた会場では、節目の素朴さが逆に魅力となっています。

北ゲートデッキ

北ゲートデッキ

細い9本を束ね大空間を支える

 間伐材の新しい用途開発にも挑戦しています。長久手日本館では、直径の細い間伐材を9本束ねた構造柱(束ね柱)を4本組み合わせて強度を確保し、高さ14メートル、柱間隔18メートルの大空間を生み出すことができました。また、細く短いために捨てられてきた間伐材を接着剤で束ねて作った集成材も、新しい活用実例となっています。

高圧水蒸気でチップボードに

 万博会場で発生した間伐材などを5センチ以下のチップにし、高圧水蒸気加工でボードを作り、会場内の4カ所で舗装に使用しました。縦30センチ、横50センチ、厚さ3センチのボードを森林体感ゾーンの遊歩道などに敷き詰めています。

 車いすでも走行しやすい硬さを確保しつつ、歩きやすく、転んでも比較的安全な柔らかさです。また、保水性にすぐれているため、気化熱効果が持続しやすい特徴があります。

間伐材を組み合わせた「束ね柱」

間伐材を組み合わせた「束ね柱」

森林体感ゾーンの木チップ舗装。時間がたってなじむと、ボードの境目は見えなくなります

森林体感ゾーンの木チップ舗装。時間がたってなじむと、ボードの境目は見えなくなります

深刻な日本林業の採算性悪化

 日本の国土の7割は森林で、森林の4割は人が植林した人工林です。しかし、人工林は植えてから20年ぐらいまでは、間伐などの集中的な管理が求められています。もし管理が不十分だと、国土の保全、水源のかん養、地球温暖化防止といった森林が本来持っている機能が発揮できなくなります。重要な森林管理である間伐を行えるようにすることは、とりも直さず環境保護につながります。

 日本の森林の多くは、将来の需要を見込んで、昭和30年代から40年代に植林されました。しかしその後、安い外国産木材が大量に輸入されるようになり、今では国内の木材需要のうち国産材の割合は18パーセントにすぎません。また、アルミやプラスチック、コンクリートなどが普及し、木材が以前ほど建築に使われなくなったことも、国産木材の需要低下につながっています。

 こうした経済的背景の中、林業の採算性が悪くなり、間伐など森林の手入れに人手をかけにくくなっています。間伐が必要であるにもかかわらず、放置されている森林が数多くあります。かつては間伐材にも建築現場の足場などの用途があり、売ることができました。しかし、最近は需要がなく、お金にならないのが現状です。
 間伐は危険を伴う大変な作業ですが、苦労して間伐しても労働に見合う対価がなく、切った木も山に残して朽ちるに任せることが多くなっています。

 農林水産省が昨年7月に行った林業経営者の意向調査でも、4分の3以上が間伐をしても採算が合わないと答えています。また、半分近くの人は労働力が得られないとしています。

間伐が必要な森林

間伐が必要な森林

間伐作業の様子

間伐作業の様子

環境価値確立への試金石

 平成16年度森林・林業白書によると、間伐実施面積、間伐材利用量は、平成12年度に「グリーン購入法」が施行され、国などの公的部門で環境にやさしい物品や資材の調達が推進されたのを機に急増しましたが、その後は頭打ちの状況が続いています。

 全国の森林組合など林業関係者は、需要拡大のため、間伐材製品開発に力を入れています。

 近年では、間伐材をパルプにした紙製品の開発が進んでいます。間伐材は繊維が長く、丈夫な紙になります。再生紙などと混ぜて紙質を調節できるため、印刷用紙、名刺、飲料の紙カン、文具などが商品化されています。

 しかし、間伐材製品は、単にその製品価値だけでなく、森林の間伐を維持することで、日本の森林を守り育てるという環境価値を持っています。間伐材を取り巻く状況は、自然との共生を揺るぎないものにできるかどうかの試金石かもしれません。

間伐材を使った皿やはし

間伐材を使った皿やはし

愛・地球博のロータリー館内にある自動販売機では、間伐材紙を使用した缶に入った飲料が販売されています

愛・地球博のロータリー館内にある自動販売機では、間伐材紙を使用した缶に入った飲料が販売されています

間伐材を使用した製品に付けられるマーク

間伐材を使用した製品に付けられるマーク