愛・地球博の長久手会場に「ミニ発電所」があるのを知っていますか。発電所といっても、一般家庭870軒程度の電力をまかなえる規模ですが、石油を燃やさないため、大きな煙突もありません。発電用の“燃料”は、太陽光とごみからつくられる水素です。複数の方式で発電したものを一緒にして、会場内で使用しています。この「新エネルギー」を活用した環境にやさしい発電実証研究の仕組み、秘密に迫ってみました。
実証研究は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)がメーカー各社と連携して行っています。一見すると化学プラントのような「発電所」は、グローバル・コモン5のNEDOパビリオン内や、その周辺にあります。発電能力は最大約2200キロワットで、長久手日本館全体とNEDOパビリオンの一部の電力を賄っています。
この新エネルギープラントには、発電燃料をつくる「高温ガス化システム」と「メタン発酵システム」があります。発電機能を担う「燃料電池システム」、「太陽電池」と、「電力貯蔵システム」が加わり、全体を構成しています。【写真1】
【写真1】NEDOの全景
太陽の光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池は、時計などに広く普及していますが、プラントでは太陽電池が、発電能力の15%分を担っています。太陽電池は、プラントの周辺に設置され、電池面積も約3200平方メートルに達します。
発電能力の85%を担うのが燃料電池。燃料電池は水の電気分解と逆のことを行います。つまり、水素と酸素を化学反応させ、電気と水をつくります。出てくるのは電気以外では水だけですから、二酸化炭素の排出もなく、静かで空気も汚しません。【写真2】【写真3】【写真4】
【写真2】西ゲート付近
発電能力200キロワット
【写真3】スペイン館付近
発電能力100キロワット
【写真4】ループフェンスに設置
発電能力30キロワット
発電原理は単純ですが、まだ本格普及前の状態で、さまざまな種類の燃料電池が研究・開発されています。プラントでは、タイプの異なる3種類の燃料電池で発電を行っています。うち1つはすでに実用段階のものですが、残る2つは大規模な分散型発電用に期待がかかるものです。
稼働している大規模発電用の燃料電池の一つは、発電過程で約1000度の熱を発生します。プラントでは発生する熱エネルギーを、NEDOパビリオンの空調に活用しています。
燃料電池の燃料は、会場の生ごみや木くず、廃プラスチックです。生ごみはメタン発酵システムで、10日間かけてメタンガスに生まれ変わります。プラスチックと木くずは高温ガス化システムで熱分解されて原料ガスとなり、ともに燃料電池に必要な水素を供給しています。
リサイクル・エネルギー
捨てていた資源を有効活用します。生ごみ、木くずといった生物資源は「バイオマス」と呼ばれ注目されています
自然エネルギー
太陽の光や風の力など、自然界のエネルギーを利用します。燃料費もかからず、無限なうえ、有害物質も出しません
→いずれも、石油に代表される限りある資源とは一線を画す「新エネルギー」です
しかし、一部とはいえ発電能力が安定しない太陽光発電に依存しているため、需要に応じて電力を安定供給するには、システム全体の制御が重要な役割を果たします。毎日、天気予報で太陽光発電量や電力需要を予想するのはもちろん、電力貯蔵システムに蓄えてある電気利用も加味して、最適な組み合わせで発電を行うことができます。
プラントの頭脳となる制御ルームで、博覧会協会出展管理室の奥田康弘さんは「燃料電池をはじめ、それぞれ個別システムの研究は進んでいますが、蓄電システムを含め、総合的なシステムとして実際に電力供給を行うことで、貴重なデータが得られます」と実証研究プラントの意義を説明しています。
棒グラフは各エネルギーの30分ごとの実測データ、赤の折れ線は予測データ、横軸は時間を示します【写真5】
→太陽光の増減により他のエネルギー値が変動している様子が分かります
【写真5】ある1日のエネルギー量の実績データ
電力消費地で発電することを、分散型発電と呼びます。最新の大規模発電所は発電の段階では、エネルギーを効率使用していますが、発電過程で生じる熱は有効活用されません。また、送電時のエネルギーロスも無視できません。
これに対し、燃料電池は直接電気を作るため、発電効率が高いうえ、送電ロスも少なくなります。排熱も有効活用できれば、総合的なエネルギー効率が高くなります。電気に加え排熱を活用すると、燃料が持っているエネルギーの80%が有効利用できると、NEDOは試算しています。また、燃料電池なら二酸化炭素を排出しないため、環境へのやさしさは格段に向上します。
この新エネルギープラントは「未来のエネルギー探求ツアー」で、施設の裏側を実際に見学することができます。
1日5回行っているツアーは、5月中旬からは事前予約で連日満員の状態が続く人気ぶりです。開幕後5月末までに約9000人が参加しています。
参加者は、子供から大人まで幅広い年齢層におよび、専門家や海外からの視察も多く見受けられます。1人での参加はもちろん、家族で参加する姿も目立ちます。
ツアー後のアンケートを見ると「生ごみやペットボトルから電気ができる点が興味深く、悪臭がないことに驚いた」「実際のパビリオンに安定した電力供給できているのがすごい」「家庭で太陽光発電を使用したい。面白かった」など、さまざまな感想に関心の高さがうかがえます。
【写真6】説明に聴き入る参加者。大人も「学生時代の社会見学以来で面白い」と興味深い様子
万博終了後、新エネルギープラントは中部国際空港に隣接する中部臨空都市(愛知県常滑市)に移設される計画です。愛・地球博での発電実績や実証データに基づき、実用に向けた実証・研究がさらに続けられます。近未来の電力供給変革の第一歩が愛・地球博から始まっています。
【写真7】グローバル・ループ上にプラントの構造を示したパネルがあります